都内に更地を持っていると、相続税の話になったときに「アパートを建てれば評価が下がりますよ」と勧められることがあります。
確かに、賃貸住宅の建築は古くから使われてきた相続対策です。
ただ、2026年9月に国税庁から新しい評価ルールの案が公表され、建ててから相続までの期間によっては、これまでほど評価が下がらなくなります。
この記事では、都内に更地をお持ちのご夫婦のケースを例に、アパートを建てると相続税の評価がどう変わるのか、そして新しいルールで何が変わるのかを、順を追って整理します。
マネー室長「建てれば評価が下がる」は半分正解です。実は、いつ建てて、いつ相続が起きるかによって、結果が大きく変わります。
今回のモデルケース
数字をイメージしやすくするため、次のご夫婦を例にします。金額はすべて説明のための仮定です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 家族 | 夫(76歳)、妻(73歳)、独立した子ども2人 |
| 土地 | 都内の更地200㎡。約30年前に夫が父から相続 |
| 路線価 | 1㎡あたり50万円(借地権割合60%) |
| 預貯金 | 1億円 |
| 検討中のこと | 預貯金1億円で賃貸アパートを建てる |



父から受け継いだ土地で、ずっと更地のままです。建設会社から「更地は相続税が一番かかる」と言われて、アパートを建てるか迷っています。
更地は相続税の評価が「いちばん高い形」
まず、更地のままだとどう評価されるのかを確認しておきます。
路線価どおりに評価される
相続税では、土地は原則として路線価に面積を掛けて評価します。
モデルケースでは、50万円×200㎡で1億円です(形や道路との関係による補正はここでは省略します)。
評価を下げる仕組みがほとんど使えない
更地が「高い形」といわれるのは、評価を下げる仕組みがほとんど使えないからです。
自宅の敷地なら「小規模宅地等の特例」で最大80%減、人に貸している土地なら貸している分の減額がありますが、誰も使っていない更地には、どちらも当てはまりません。
路線価どおりの金額がそのまま相続財産になります。
固定資産税でも割高になる
ちなみに、固定資産税でも更地は割高です。住宅が建っている土地には税額を最大6分の1にする特例がありますが、更地は対象外です。
持っているだけで毎年の負担が重いことも、更地の悩みの一つです。
アパートを建てると評価が下がる3つの仕組み
では、この土地にアパートを建てると何が変わるのでしょうか。評価が下がる理由は、大きく分けて3つあります。
ひとつずつ見ていきます。
①土地が「貸家建付地」になる
アパートの入居者には「借家権」という権利があり、土地の所有者はその土地を自由に使ったり、すぐに売ったりすることができなくなります。
この使いにくさを反映して、賃貸住宅の敷地は「貸家建付地」として評価が下がります。
計算式は次のとおりです。
自用地の評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
借地権割合は路線価図に地域ごとに記号で示されていて、都内の住宅地では60〜70%のところが多く見られます。
借家権割合は全国一律で30%、賃貸割合は建物のうち実際に貸している部分の割合です。
モデルケースの借地権割合は60%なので、満室なら1億円×(1-0.6×0.3×1.0)=8,200万円。
土地を貸家建付地にするだけで、評価が18%下がります。
ただし空室があると賃貸割合が下がり、減額も小さくなります。
退去後すぐに次の入居者を募集しているような一時的な空室は、貸しているものとして扱われることもあります。
②建物は固定資産税評価額で評価される
相続税では、建物は建築費ではなく固定資産税評価額で評価されます。
固定資産税評価額は、同じ建物を建て直したらいくらかかるかを基準に、市区町村(23区は東京都)が決める金額です。
建築会社の利益や設計費などは含まれないため、新築時でも建築費の5〜7割程度になるのが一般的です。
さらに、人に貸している建物は、借家権割合の30%が差し引かれます。
モデルケースで建物の固定資産税評価額を建築費1億円の6割の6,000万円とすると、6,000万円×(1-0.3)=4,200万円です。
1億円の現金が、評価上は4,200万円の建物に置き換わることになり、これがアパート建築による評価減のいちばん大きな部分です。
なお、固定資産税評価額は建物の構造や設備によって変わり、正式な金額は完成後に決まります。
建築前の試算では、建築会社に見込み額を確認しておくと安心です。
③小規模宅地等の特例(貸付事業用)が使える
小規模宅地等の特例は、自宅や事業に使っている土地の評価を下げる制度です。
賃貸事業に使っている土地は「貸付事業用宅地等」として、200㎡まで評価が50%下がります。
モデルケースの土地は200㎡なので、貸家建付地の8,200万円がさらに半分の4,100万円になります。
ただし、使うには条件があります。土地を相続した人が相続税の申告期限まで土地を持ち続け、賃貸事業を引き継ぐことが必要です。
また、相続開始前3年以内に新しく貸し始めた土地は、原則として対象外です。
以前から一定規模以上の賃貸事業を続けている方は例外になることもありますが、初めてアパートを建てる場合は、3年たつまでこの特例は使えないと考えておきましょう。
自宅の敷地にも特例を使う場合は、両方の面積を合わせて調整する計算が必要になり、200㎡まるごと50%減とはならないことがあります。
どの土地に特例を使うかは、相続人全体の税額を見ながら決めることになります。
モデルケースで計算すると
3つの仕組みを合わせて、アパートの建築から3年半後に相続が起きた場合を計算します。
満室で貸していて、特例の3年の条件も満たしているものとします。
| 項目 | 更地のまま | アパート建築後 |
|---|---|---|
| 土地 | 1億円 | 4,100万円 |
| 預貯金・建物 | 預貯金1億円 | 建物4,200万円 |
| 合計 | 2億円 | 8,300万円 |
土地は貸家建付地と特例で4,100万円、建物は4,200万円です。
2億円あった財産の評価が8,300万円まで下がり、差は1億1,700万円になります。
借入で建てた場合も考え方は同じ
建築費を借入でまかなう場合も、考え方は同じです。
預貯金1億円には手をつけず、1億円を借りて建てたケースと並べてみます。計算を単純にするため、借入金の残高は1億円のままとします。
| 項目 | 更地のまま | 預貯金で建築 | 借入で建築 |
|---|---|---|---|
| 土地 | 1億円 | 4,100万円 | 4,100万円 |
| 建物 | - | 4,200万円 | 4,200万円 |
| 預貯金 | 1億円 | 0円 | 1億円 |
| 借入金 | - | - | ▲1億円 |
| 合計 | 2億円 | 8,300万円 | 8,300万円 |
借入で建てると預貯金は残りますが、同じ額の借入金が差し引かれるため、合計は預貯金で建てた場合と同じ8,300万円です。
評価を下げているのは、1億円が評価の低い建物に置き換わったことで、借入そのものではありません。
「借金をすると相続税が減る」と誤解されやすい点なので、押さえておきましょう。
実際には、家賃収入から返済が進むにつれて借入金の残高は減り、その分だけ差し引ける金額も小さくなります。
一方で、借入で建てれば手元に預貯金が残るため、相続税の納税資金を確保しやすいという違いはあります。



評価が下がるのは、1億円の現金が「評価の低い建物」と「貸家建付地」に置き換わるからです。ここまでが、これまで広く使われてきた仕組みです。
2026年9月の通達案で「建物」の評価が変わる
この仕組みに、2026年から見直しが入りました。
見直しの背景と適用時期
令和8年度税制改正大綱で方針が示され、2026年9月18日に国税庁が具体的なルールの案(通達案)を公表しています。
意見募集は10月18日までで、2027年1月1日以後の相続・贈与から適用される予定です。
背景にあるのは、市場価格と相続税評価額の大きな開きです。
国税庁の資料では、21億円で買った一棟賃貸マンションが、相続税の評価では4.2億円にしかならなかった例も示されています。
相続の直前に現金を賃貸不動産へ移すだけで評価が大きく下がる状態を改めるのが、今回の見直しのねらいです。
新ルールの評価方法
中身を一言でいうと、相続前5年以内にお金を払って取得・新築した賃貸用の不動産は、路線価や固定資産税評価額ではなく、実際の取引価格に近い金額で評価するというものです。
原則は相続時点の時価ですが、買ったときの価格が相場どおりなら、次の簡便な計算も選べます。
土地
取得価額×地価の変動率×80%
建物
(取得価額-減価償却費)×80%
長く持っている土地は従来どおりの評価
ここで大切なのは、土地と建物は別々に判定するという点です。
モデルケースの土地は約30年前から持っているので、「5年以内の取得」には当たりません。
つまり、土地は従来どおりの評価で、変わるのは新しく建てた建物だけです。
また、新ルールで評価する建物には、貸している分の30%減は重ねて使えないと考えられています。
新ルールでモデルケースを計算すると
建物を新ルールで計算してみます。鉄筋コンクリート造の住宅は耐用年数47年(償却率0.022)で、1年未満の端数は1年に切り上げるため、3年半は4年分として扱います。
減価償却費は1億円×0.022×4年=880万円。建物の評価は、(1億円-880万円)×80%=7,296万円です。
| 項目 | 従来の評価 | 通達案の評価 |
|---|---|---|
| 土地 | 4,100万円 | 4,100万円 |
| 建物 | 4,200万円 | 7,296万円 |
| 合計 | 8,300万円 | 1億1,396万円 |
| 更地のままとの差 | 1億1,700万円 | 8,604万円 |
評価を下げる効果は、1億1,700万円から8,604万円に縮みます。
仮に税率30%で単純計算すると、税額への影響は約3,510万円から約2,581万円になるイメージです。
小さくない差ですが、効果がなくなるわけではありません。



「アパートの相続対策はもう使えない」という声も聞きますが、長く持っている土地に建てる場合は、土地側の効果がそのまま残ります。影響が大きいのは、土地ごと最近買った場合です。
土地も最近買った場合は影響が大きい
土地も最近お金を払って買ったものだと、事情が大きく変わります。
土地も「取得価額×地価の変動率×80%」で評価されるため、貸家建付地の減額も効かなくなり、評価を下げる効果の大部分が失われます。
同じアパート建築でも、土地をいつ、どうやって手に入れたかで結果が分かれる点は押さえておきましょう。
経過措置と「5年」の数え方
新ルールには、すでに建てた建物への経過措置があります。また、新ルールの「5年」と特例の「3年」は、数え方が別々です。
通達制定日までに建てた建物は対象外
通達が正式に定められる日(通達制定日)の5年より前から持っている土地に、通達制定日までに新築した建物は、新ルールの対象外です。
モデルケースの土地はこの条件に当てはまります。
「建築中」の建物も含まれますが、着工していればよいわけではありません。次の3つをすべて満たす必要があります。
- 請負契約などを結んでいる
通達制定日までに、建築の契約が済んでいること。 - 工事が行われている
通達制定日の時点で、実際に工事が進んでいること。 - 費用の一部を支払っている
契約や地鎮祭だけでは足りず、支払いが1円もなければ要件を欠きます。
通達制定日は案の段階ではまだ決まっておらず、意見募集が終わったあと、年内に定められる見込みとされています。
これから検討を始める方が経過措置に間に合わせるのは、現実的にはかなり難しいと考えておいたほうがよいでしょう。
間に合わせるために急いで契約するのは、本末転倒になりかねません。
新築から5年を超えれば従来の評価に戻る
経過措置に間に合わなくても、新ルールが永遠に続くわけではありません。
建物の評価は、建てた時期と相続の時期によって次のように分かれます。
| 建てた時期と相続の時期 | 建物の評価 |
|---|---|
| 通達制定日までに新築(建築中を含む) | 従来どおり(固定資産税評価額ベース) |
| 通達制定日より後に新築し、5年以内に相続 | 通達案の評価(原則は時価、例外で80%評価) |
| 通達制定日より後に新築し、5年を超えて相続 | 従来どおり(固定資産税評価額ベース) |
小規模宅地等の特例の「3年」は別に数える
もう一つ、小規模宅地等の特例の「3年」も別に数える必要があります。
新ルールの5年は「建物を新築してから」、特例の3年は「貸し始めてから」の期間です。
新築から3年以内の相続では、建物の評価が上がるうえに、土地の50%減も原則使えません。
建てるなら、少なくとも5年以上先を見据えた計画になるということです。
相続の時期で結果はここまで変わる
ここまでのルールを、モデルケースに当てはめてみます。
通達制定日より後にアパートを新築し、夫の相続が建築から2年後、4年後、6年後に起きた場合を比べます。
6年後の建物の固定資産税評価額は、経年による減額を見込んで5,400万円と仮定しています。
| 相続の時期 | 土地 | 建物 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 建築から2年後 | 8,200万円 | 7,648万円 | 1億5,848万円 |
| 建築から4年後 | 4,100万円 | 7,296万円 | 1億1,396万円 |
| 建築から6年後 | 4,100万円 | 3,780万円 | 7,880万円 |
同じ土地、同じアパートでも、相続がいつ起きるかで、評価を下げる効果は3倍近く変わります。
建築から2年後:土地の特例も使えない
2年後の相続では、建物が新ルールで評価されます。減価償却費は1億円×0.022×2年=440万円で、(1億円-440万円)×80%=7,648万円です。
さらに、貸し始めて3年以内なので土地の特例も使えず、土地は貸家建付地の8,200万円のままです。
更地のまま(2億円)と比べた差は4,152万円にとどまります。
それでも評価は更地のままより低く、建てたことが不利になるわけではない点は確認しておきたいところです。
建築から4年後:土地の特例が使えるようになる
4年後になると、貸し始めてから3年を超えるため、土地の特例が使えるようになります。
土地は4,100万円まで下がり、差は8,604万円に広がります。
ただし建物はまだ新ルールの評価で、7,296万円のままです。
建築から6年後:建物も従来の評価に戻る
6年後には新築から5年を超えるため、建物も固定資産税評価額ベースの従来の評価に戻ります。
5,400万円×(1-0.3)=3,780万円となり、差は1億2,120万円まで広がります。
土地・建物の両方で評価減が効く、本来の形になるということです。
「いつ建てるか」は年齢や健康状態も含めて考える
ご本人の年齢や健康状態を考えると、「いつ建てるか」は税金の計算以上に重い判断になります。
効果が最大になるのは建築から5年を超えてからなので、高齢になってから建てるほど、途中で相続が起きる可能性は高くなります。



相続の時期は誰にも決められません。「何年後なら効果がいくら」と幅で把握しておくと、建てる・建てないの判断が落ち着いてできるようになります。
税金だけを理由に建てないための4つの確認点
評価の話だけを見ると、アパートはまだ有効な選択肢です。
ただ、相続対策としての成否は、税金以外の部分で決まることも少なくありません。建てる前に、次の4つを確認しておきましょう。
①賃貸経営として成り立つか
家賃は築年数とともに下がり、修繕費は増えていきます。
評価が下がっても、赤字が続けば財産そのものが減ってしまいます。
一括借上げでも、家賃の見直しがある点に注意が必要です。
建設会社の収支計画は、家賃の下落や空室、大規模修繕の費用まで織り込まれているかを確認しましょう。
②相続人で分けられるか
更地なら分筆や一部売却で分けやすいのに対し、アパート1棟は分けにくく、共有にするともめる原因になります。
共有にすると、売却や建て替えのたびに全員の同意が必要になるからです。



子どもが2人いるので、アパートを建てたら誰が継ぐのかも気になっていました。



そこはとても大事な視点です。評価の計算と同じくらい、「誰がどう引き継ぐか」を先に決めておくと、建てるかどうかの判断もしやすくなります。
③納税資金が残るか
預貯金1億円を建物に替えると、相続税を払うための現金が手元から消えます。
建てたあとの不動産は売りにくく、いざというときの資金化も簡単ではありません。
相続税は原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に現金で納める必要があります。
④ほかの選択肢と比べたか
更地のまま持ち、必要なときに一部を売って納税資金にする方法もあります。
舗装した月極駐車場なら、建物がないため今回の新ルールの対象外で、貸付事業用の特例を使える可能性もあります。
アパートありきではなく、複数の選択肢を同じ条件で比べてから決めることが大切です。
まとめ
都内の更地は、相続税の評価がもっとも高くなりやすい形です。
アパートの建築はその評価を大きく下げる方法ですが、2027年以降は新ルールによって、建ててから5年以内の相続では建物の評価が時価に近づきます。
- 長く持っている土地の評価は変わらない
貸家建付地と小規模宅地等の特例による土地の効果は残ります。 - 変わるのは新しく建てた建物の評価
新築から5年以内の相続では、取得価額に近い金額で評価されます。 - 経過措置に焦って合わせない
建築中と認められる要件は厳しく、無理に急ぐとかえってリスクが大きくなります。 - 税金以外の条件を先に確認する
賃貸経営の見通し、分け方、納税資金の3点を整理してから判断します。
なお、ここで紹介した新ルールは2026年9月時点の通達案にもとづく内容で、最終的な通達では変更される可能性があります。
実際に検討するときは、最新の情報を確認したうえで、まず更地のままの場合の相続税額と、それを現金で払えるかどうかを把握するところから始めてみてください。



