「個人向け国債は買ってはいけない」。
ネットで調べると、こんな強い言葉をよく見かけます。
ただ、その多くは金利がほぼゼロだった時代の評価です。
2026年10月募集分の個人向け国債は、3つのタイプすべてで年2%を超えました。
前提となる数字が変われば、評価も変わります。
とはいえ、「金利が上がったから誰にでもおすすめ」という話でもありません。
この記事では、個人向け国債の仕組みから、「買ってはいけない」と言われてきた理由、今の金利水準での損得、向いている人・向いていない人まで、順を追って整理します。
マネー室長「やめとけ」と「おすすめ」のどちらか一方で語られがちな商品ですが、実際は使う場面しだいです。手元のお金のどの部分を置くのか、イメージしながら読んでみてください。
個人向け国債の基本をおさらい
3つのタイプと共通のルール
個人向け国債は、国が発行する債券のうち、個人だけが購入できるものです。
毎月募集されていて、銀行や証券会社、郵便局などで買えます。
タイプは3つあり、違いは満期までの期間と、金利が固定か変動かです。
| 項目 | 変動10年 | 固定5年 | 固定3年 |
|---|---|---|---|
| 満期 | 10年 | 5年 | 3年 |
| 金利 | 半年ごとに見直し | 満期まで固定 | 満期まで固定 |
| 利払い | 年2回 | 年2回 | 年2回 |
3タイプに共通するルールは次のとおりです。
- 1万円から購入できる
1万円単位で、購入額の上限はありません。 - 最低金利は年0.05%
市場の金利がどれだけ下がっても、これを下回ることはありません。 - 1年たてば国が額面で買い取る
発行から1年が過ぎれば、いつでも換金できます。元本割れはしません。 - 購入・保有に手数料はかからない
ただし途中で換金すると、「中途換金調整額」が差し引かれます。
金利は市場の金利から自動で決まる
個人向け国債の金利は、募集のたびに財務省が市場の金利をもとに決めます。
計算式は次のとおりです。
固定3年:基準金利 − 0.03%
固定5年:基準金利 − 0.05%
変動10年:基準金利 × 0.66(半年ごとに見直し)
※いずれも最低金利は年0.05%
つまり、世の中の金利が上がれば、個人向け国債の金利も上がります。
逆に、金利が下がる局面では、新しく買う分の金利も下がります。
変動10年は、買ったあとも半年ごとに金利が見直されるのが特徴です。
一方、固定5年と固定3年は、買った時点の金利が満期まで続きます。
「買ってはいけない」と言われてきた理由
個人向け国債が厳しく評価されてきた理由は、主に次の4つです。
① 利息がほとんどつかなかった
日銀がマイナス金利政策をとっていた時期、個人向け国債の金利は長く最低金利の年0.05%に張り付いていました。
100万円を1年持っても、利息は税引前で500円。
税金を引けば、約400円です。
銀行の振込手数料で消えてしまうほどの金額で、「わざわざ買う意味がない」と言われたのは当然といえます。
② 物価の上昇に追いつかない
2022年以降、日本でも物価の上昇が続きました。
物価が年2〜3%上がる一方で、利息が年0.05%しかつかなければ、お金の実質的な価値は毎年目減りしていきます。
「安全だけれど、持っているだけで損をする」という評価は、この時期の数字から生まれたものです。
③ 1年間は換金できない
個人向け国債は、発行から1年間は原則として換金できません。
例外は、保有者が亡くなった場合や、災害救助法が適用される大規模な災害に遭った場合などに限られます。
急な出費に備えるお金を置く場所としては、使いにくい仕組みです。
④ 途中で換金すると利息が差し引かれる
1年が過ぎたあとの換金では、直前2回分の利息(税引後)に相当する額が「中途換金調整額」として差し引かれます。
元本は守られますが、受け取った利息の一部を返すイメージです。
1年ちょうどで換金すると、受け取った利息がほぼすべて差し引かれ、手元には元本だけが戻る計算になります。



③と④は、今も変わらない仕組みです。金利が上がって魅力が増した部分と、変わらない注意点を分けて考えると、判断がぐっとしやすくなります。
2026年秋の数字で見直すと
3タイプとも年2%台に
2024年以降、日銀は段階的に政策金利を引き上げ、2026年9月には1.25%程度になりました。
それにつれて個人向け国債の金利も上がり、2026年10月募集分では3タイプすべてが年2%を超えています。
| タイプ | 金利(税引前) | 金利(税引後) | 100万円・1年分の利息(税引後) |
|---|---|---|---|
| 固定5年 | 年2.39% | 年約1.90% | 約19,045円 |
| 固定3年 | 年2.07% | 年約1.65% | 約16,495円 |
| 変動10年 | 年2.05%(初回) | 年約1.63% | 約16,335円 |
※2026年10月募集分。税引後は20.315%の税金を差し引いて計算しています。変動10年は半年ごとに金利が見直されるため、2回目以降の利息は変わります。
最低金利の年0.05%だった時代と比べると、利息は40倍以上です。
「利息がほとんどつかない」という理由①は、今の金利水準ではもう当てはまらないといってよいでしょう。
銀行預金との差
メガバンクの普通預金金利も上がり、2026年11月からは年0.5%になります。
それでも、100万円を1年置いた場合の利息は、税引後で約3,984円です。
固定5年の個人向け国債とは、1年で1万5,000円ほどの差があります。
ネット銀行の定期預金やキャンペーン金利には年1%を超えるものもありますが、預入期間や金額に条件がつくことがほとんどです。
1年以上使う予定のないお金なら、預金よりも個人向け国債のほうが利息は多くなるのが、今の状況です。
物価上昇率と比べると
2026年9月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、前年比で2.1%の上昇でした。
固定5年の税引後の利回りは約1.90%なので、物価と比べると、ほぼ横ばいか、わずかに下回る水準です。
「物価にまったく追いつかない」状態からは、大きく改善しました。
ただし、理由②が完全に解消したわけではありません。
個人向け国債は「お金を増やす」商品というより、「お金の価値を守る」商品に近いと考えるのが現実的です。
中途換金で「いくら損するか」を数字で確認
受取額の計算式
1年が過ぎたあとに換金した場合、受け取れる金額は次の式で決まります。
受取額 = 額面金額 + 経過利子 − 中途換金調整額
中途換金調整額:直前2回分の利子(税引前)× 0.79685
経過利子:前回の利払日から換金日までに発生した利子
「0.79685」は、利子から税金(20.315%)を差し引いた割合です。
つまり、中途換金調整額は「税引後の利息2回分」と同じ金額になります。
固定5年を2年で換金した場合
100万円で買った固定5年(年2.39%)を、ちょうど2年後の利払日に換金したとします。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 2年間に受け取った利息(4回分・税引後) | 約38,089円 |
| 中途換金調整額(2回分) | −約19,045円 |
| 差し引きで手元に残る利息 | 約19,044円 |
※計算を簡単にするため、経過利子が発生しない利払日に換金した前提です。
2年間持っていても、手元に残る利息は1年分ほどです。
中途換金のコストは「利息約1年分」と覚えておくと、判断しやすくなります。
ただし、元本の100万円はそのまま戻ってきます。
値下がりで元本を割る心配がない点は、ほかの債券や投資信託との大きな違いです。
金利上昇局面での乗り換えは慎重に
固定型を買ったあとに金利がさらに上がると、「換金して、新しい国債に買い替えたほうが得では」と考えたくなります。
しかし、乗り換えには利息約1年分のコストがかかります。
例えば、満期まで残り3年の時点で、新しい国債との金利差が0.3%だったとします。
3年間で得られる差は合計0.9%分ですが、中途換金調整額は額面の約1.9%分。乗り換えると、かえって損をする計算です。
金利の先行きが読めず、「買ったあとに金利が上がったら悔しい」と感じる方は、半年ごとに金利が見直される変動10年を選ぶのも1つの方法です。
銀行預金・新NISAとの役割分担
安全性は預金と比べてどうか
銀行預金は、銀行が破綻した場合でも、1つの金融機関につき元本1,000万円とその利息までが保護されます(預金保険制度)。
一方、個人向け国債は国が元本と利息の支払いを約束するもので、こうした上限額はありません。
退職金など、まとまった金額を置く場合には、この違いが意味を持ちます。
もっとも、日本の政府債務はGDPの2倍を超える規模で、国債にも信用リスクがまったくないわけではありません。
「日本円で持つ資産の中では、最も信用リスクが低い部類」と理解しておくのがよいでしょう。
新NISAとは目的が違う
個人向け国債は、新NISAやiDeCoの対象外です。
利息には、通常どおり20.315%の税金がかかります。
新NISAで株式の投資信託などを長く持てば、値動きはあるものの、国債を上回るリターンが期待でき、その利益は非課税です。
将来に向けてお金を増やしたいなら、まずは新NISAなどの非課税制度の活用を考えるのが基本です。
そのうえで、「減らしたくないお金」の置き場として個人向け国債を使う、という順番で考えると整理しやすくなります。
お金を「使う時期」で分けて考える
個人向け国債が役立つかどうかは、そのお金をいつ使うかで決まります。
- すぐに使う可能性があるお金
生活費の数か月分は、いつでも引き出せる普通預金に置きます。1年間換金できない国債は向きません。 - 数年以内に使う予定があるお金
車の買い替え、住宅の頭金、子どもの進学費用などです。値下がりさせたくないお金は、個人向け国債の出番です。 - 10年以上使わないお金
老後資金などです。物価の上昇を上回る成長を狙って、新NISAなどでの長期投資を中心に考えます。



「国債とNISA、どちらがいいですか」と聞かれることがよくありますが、実際は置くお金の役割が違います。使う時期で分けてみると、それぞれの出番が自然と見えてきます。
個人向け国債が向いている人・向いていない人
向いている人
- 数年以内に使う予定のお金がある人
使う時期に元本が減っていては困るお金の置き場として適しています。 - 元本割れを避けたい人
値動きのある商品に抵抗がある方にとって、預金以外の最初の選択肢になります。 - 預金保険の上限を超える資金がある人
退職金や相続したお金など、まとまった金額を安全に置きたい場合に向いています。 - 年金以外の定期的な収入がほしい人
利息は半年ごとに受け取れます。購入する月をずらせば、受け取る月を分散させることもできます。
向いていない人
- 1年以内に使う可能性がある人
発行から1年間は、原則として換金できません。 - 資産を大きく増やしたい人
利回りは物価とほぼ同じ水準です。資産を増やす役割は、株式などが担います。 - 新NISAの非課税枠をまだ使い切っていない人
長期の資産形成が目的なら、非課税で運用できる制度を優先したほうが効率的です。
タイプの選び方と購入前のチェック
3タイプはどう選ぶか
| 考え方 | 向いているタイプ | 理由 |
|---|---|---|
| 今の金利を長めに確定させたい | 固定5年 | 2026年10月募集では3タイプで最も金利が高く、5年間変わらない |
| 3年以内に使う予定がある | 固定3年 | 使う時期に満期を合わせやすく、中途換金のコストを避けられる |
| 今後も金利が上がると考える | 変動10年 | 半年ごとに金利が見直され、金利の上昇についていける |
変動10年は「10年」という名前ですが、1年たてば換金できます。
金利の動きに合わせて受け取る利息が変わるので、「金利上昇に強い預金」に近い感覚で使うこともできます。
購入前に確認したいこと
- 最新の金利
金利は毎月変わります。購入する月の金利を、財務省のサイトで確認しましょう。2026年11月募集分は、11月6日に発表される予定です。 - 募集期間と発行日
募集期間は毎月上旬から月末まで、発行は翌月15日ごろです。金融機関によっては締め切りが早い場合があります。 - 金融機関のキャンペーン
購入額に応じて現金がもらえるキャンペーンを行っている証券会社や銀行もあります。対象となる条件をよく確認しましょう。 - お金を使う予定の時期
1年間の換金制限や満期の時期と、お金を使う時期が合っているかを確認します。
まとめ
「個人向け国債は買ってはいけない」という評価は、金利がほぼゼロだった時代には、一定の説得力がありました。
しかし2026年秋の今、3タイプすべての金利が年2%を超え、預金との差も大きく開いています。
一方で、1年間は換金できないこと、途中で換金すると利息約1年分が差し引かれること、物価と比べると「増やす」より「守る」に近い利回りであることは、今も変わりません。
大切なのは、「買うか、買わないか」ではなく、「どのお金を置くか」です。
数年以内に使う予定があり、減らしたくないお金。
その置き場としてなら、今の個人向け国債は十分に検討する価値のある選択肢といえるでしょう。







