こんにちは。「マネー相談室」へようこそ。
ファイナンシャルプランナー兼ライターの筆者です。
皆さんは、保険のパンフレットやニュースで「先進医療」という言葉を目にして、こんな不安を感じたことはありませんか?
「がんになったら、治療費で300万円もかかるらしい」
「近所の病院では受けられない特別な治療なの?」
「貯金で払えなかったらどうしよう……」
その「300万円」という数字のインパクトばかりが独り歩きしていますが、実はいま、先進医療の中身や実施環境は大きく変わりつつあります。
今回は、厚生労働省の最新データをもとに、先進医療のリアルな費用と、「具体的にどこの病院で受けられるのか」という実施施設一覧、そして「本当にその保険特約は必要か?」という疑問にFPの視点でお答えします。
先進医療とは?仕組みを3分で解説
まずは、そもそも先進医療とは何か、その特別な仕組みについてお話しします。
日本の医療制度には、「保険がきく治療と、きかない治療を混ぜてはいけない(混合診療の禁止)」という大原則があります。もし少しでも保険外の治療を混ぜると、本来は3割負担で済む診察代や入院費まで、すべて全額自己負担(10割負担)になってしまうのです。
しかし、厚生労働省が安全性と有効性を認めた「先進医療」に限り、特例として保険診療との併用が認められています。
費用の内訳イメージ
患者さんが窓口で支払うお金は、以下の2階建てになります。
- 1階部分(診察・検査・入院など):公的保険が使えます。3割負担で済みますし、「高額療養費制度」も利用可能です。
- 2階部分(先進医療の技術料):ここがポイントです。全額自己負担となり、高額療養費の対象にもなりません。
この「2階部分」が数万円で済むものもあれば、数百万円かかるものもあるため、「先進医療=高い」というイメージが定着しているのですね。
【最新データ】実は不妊治療が最多?
「先進医療といえば、高額ながん治療」
そう思っている方が大半ですが、実は最新の実績を見ると少し意外な事実が見えてきます。
厚生労働省の「先進医療の実績報告(令和5年6月時点)」によると、いま日本で最も多く行われている先進医療は、がん治療ではなく「不妊治療」に関連する技術なのです。
患者数が多い技術ランキング
| 順位 | 技術名 | 推定費用 | 分野 |
|---|---|---|---|
| 1位 | タイムラプス撮像法 | 約3.4万円 | 不妊治療 |
| 2位 | 子宮内膜刺激術 | 約3.3万円 | 不妊治療 |
| 3位 | 強拡大顕微鏡法 | 約1.6万円 | 不妊治療 |
このように、現在の先進医療は「より妊娠の確率を高めるためのオプション技術」として広く利用されています。1回あたりの費用は数万円ですが、不妊治療は回数を重ねることが多いため、トータルの負担は決して軽くありません。
費用が高額な技術ランキング
一方で、「技術料」が高額なものの代表格は、やはりがん治療です。
- 陽子線治療: 約268万円
- 重粒子線治療: 約314万円
これらは「切らずに治す」強力な放射線治療として知られています。もし受けることになれば、一度に車が買えるほどの出費が必要になります。
【保存版】陽子線・重粒子線の実施病院
先進医療を検討する上で最も重要なのが、「受けられる病院が限られている」という点です。
近所のクリニックで気軽に受けられるものではありません。ここでは2025年現在、治療を実施している主な医療機関をご紹介します。
重粒子線治療(全国7施設)
X線よりも破壊力が強く、従来の放射線が効きにくいがんにも効果が期待できる治療法です。全国に以下の7カ所しかありません。
| 東北 | 山形大学医学部東日本重粒子センター(山形) | |
| 関東 | QST病院(千葉) | 群馬大学医学部附属病院(群馬)
神奈川県立がんセンター(神奈川) |
| 関西 | 大阪重粒子線センター(大阪) | 兵庫県立粒子線医療センター(兵庫) |
| 九州 | 九州国際重粒子線がん治療センター(佐賀) |
陽子線治療(全国約20施設)
病巣をピンポイントで狙い撃ちでき、小児がんなどへの負担も少ない治療法です。重粒子線よりは多いですが、それでも限られています。
主な実施医療機関(抜粋)
- 北海道: 北海道大学病院、札幌禎心会病院 など
- 東北: 南東北がん陽子線治療センター(福島)
- 関東: 筑波大学附属病院(茨城)、国立がん研究センター東病院(千葉) など
- 中部: 静岡県立静岡がんセンター、名古屋陽子線治療センター、福井県立病院、相澤病院(長野) など
- 関西: 大阪陽子線クリニック、京都府立医科大学、兵庫県立粒子線医療センター など
- 中国・四国: 岡山大学・津山中央病院共同運用がん陽子線治療センター(岡山)
- 九州: メディポリス国際陽子線治療センター(鹿児島)
お住まいの地域によっては、治療のために「新幹線での通院」や「マンスリーマンションを借りて滞在」が必要になります。つまり、治療費(技術料)以外に、交通費や宿泊費という見えないコストがかかることを覚えておきましょう。
FP直伝!先進医療特約は必要?
最後に、皆さんが一番知りたい「保険」についてのアドバイスです。
民間の医療保険やがん保険には、月額100円前後でつけられる「先進医療特約」があります。
ズバリ、私の結論としては「迷うならつけておくべき」です。
理由1:コストパフォーマンスが良い
月々コーヒー1杯以下の保険料で、通算2,000万円程度までカバーしてくれる商品が大半です。「300万円の貯金を急に作る」のは大変ですが、「月100円」なら負担感なくリスクを転嫁できます。
理由2:公的保険への移行期だから
実は、前立腺がんや肝臓がんの一部などは、すでに公的保険の対象になり、3割負担で受けられるようになっています。
しかし、「公的保険の対象外」の難しいがんになった場合は、依然として先進医療扱い(全額自己負担)になります。
制度が過渡期にある今だからこそ、どちらに転んでも大丈夫なように「特約」でお守りを持っておくのが、家計防衛の賢い選択です。
まとめ
先進医療は、決して「遠い世界の話」でもなければ、「必ず300万円かかる話」でもありません。不妊治療のような身近なサポート技術もあれば、いざという時の切り札となるがん治療もあります。
大切なのは、「正しく恐れること」です。
今回ご紹介した病院リストを見て、「通える範囲にあるか?」を確認するだけでも立派なリスク管理です。
もしもの時にお金のせいで治療を諦めないために。ぜひ一度、ご自身の保険証券にある「先進医療特約」の文字を確認してみてくださいね。
