相続税は、亡くなった人の遺産総額が「基礎控除額」を超えた場合、その超過分に対して課される国の税金です。制度の根幹から具体的な計算事例、実務上の注意点までを網羅して解説します。
課税対象となる基準(基礎控除額)
遺産総額が以下の「基礎控除額」以下であれば相続税はかからず、税務署への申告も不要です。
3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
| 法定相続人の数 | 基礎控除額(非課税枠) |
| 1人(子1人のみ など) | 3,600万円 |
| 2人(配偶者・子1人 など) | 4,200万円 |
| 3人(配偶者・子2人 など) | 4,800万円 |
相続税の対象となる主な財産
金銭に見積もることができる、経済的価値のあるものは原則としてすべて相続税の対象となります。
- 本来の相続財産
現金、預貯金、土地・建物(不動産)、株式・公社債、自動車、貴金属など。 - みなし相続財産
被相続人の死亡をきっかけに支払われる「生命保険金」や「死亡退職金」。これらには「500万円 × 法定相続人の数」の独自の非課税枠が設けられています。
死亡保険金の非課税枠とは?仕組みから按分計算、実務の落とし穴まで徹底解説 - 生前贈与財産
亡くなる前(原則7年以内)に暦年贈与で受け取っていた財産や、相続時精算課税制度を利用して贈与された財産。
一方、以下のものは上記資産からマイナスします。
- 非課税財産
墓地や墓石、仏壇・仏具など(これらは信信仰の対象として相続税がかかりません)。 - 債務(マイナスの財産)
借入金、住宅ローン(団体信用生命保険で相殺されないもの)、亡くなった人が支払うはずだった未払いの税金(住民税や所得税など)や医療費。 - 葬式費用
通夜・告別式の費用、火葬代、お寺への読経料(お補施)など、葬儀に直接かかった費用です。※香典返しの費用や、四十九日法要などの法事費用は差し引くことができません。
これらを加味し『最終的に相続税の課税対象となるベースの金額』のことを『正味の遺産総額』といいます。
相続税計算の4ステップ
相続税は「各自がもらった分に直接税率をかける」のではなく、「一度、家族全員の税金総額を確定させてから、実際の相続割合で按分する」という手順を踏みます。
正味の遺産総額(プラスの財産 - 債務・葬儀費用)から「基礎控除額」を差し引き、課税対象となる金額を算出します。
実際の分割割合は無視し、ベースとなる金額を民法が定める割合(法定相続分)通りに分けたと仮定します。
仮分割した各自の金額に税率(下表の累進税率)を適用して個別の税額を算出し、それらを合算して「家族全体の税金総額」を確定させます。
確定した税金総額を、実際の財産取得比率で各自に割り振ります。そこから個人の税額控除を差し引いた金額が、最終的な納税額となります。
相続税の税率(速算表)
| 法定相続分に応ずる取得金額の区分 | 税率 | 控除額 |
| 1,000万円以下 | 10% | 0円 |
| 1,000万円を超え 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円を超え 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円を超え 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円を超え 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円を超え 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円を超え 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円を超える場合 | 55% | 7,200万円 |
【具体例】遺産1億円・家族3人(妻・子2人)の計算事例
財産を法定相続分(妻2分の1、子それぞれ4分の1)の通りに分けたケースでのシミュレーションです。
基礎控除額:3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円
課税遺産総額:1億円 - 4,800万円 = 5,200万円
妻(2分の1):2,600万円
子A(4分の1):1,300万円
子B(4分の1):1,300万円
妻:2,600万円 × 15% - 50万円 = 340万円
子A:1,300万円 × 15% - 50万円 = 145万円
子B:1,300万円 × 15% - 50万円 = 145万円
我が家の税金総額:340万円 + 145万円 + 145万円 = 630万円
実際の取得比率(今回は法定相続分通り)で630万円を割り振った後、税額控除を適用します。
- 妻:配偶者の特例により、納税額は 0円
- 子A:納税額は 145万円
- 子B:納税額は 145万円
家族全体の実際の納税総額:290万円
税負担を劇的に軽減する2大特例
① 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者が遺産を相続する場合、以下のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税が一切かからなくなる制度です。
- 1億6,000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
※法律婚の配偶者のみが対象(内縁関係は不可)。
- 法律上の配偶者であること
籍を入れている夫婦に限られます(内縁関係や事実婚は対象外)。 - 申告期限までに遺産分割が確定していること
亡くなった翌日から10ヶ月以内に「誰がどの財産をもらうか」が決まっている必要があります。 - 相続税の申告書を税務署に提出すること
無税になっても申告が必須です。
② 小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)
亡くなった人が住んでいた自宅の土地(宅地)について、330㎡(約100坪)までの部分の評価額を「80%減額」できる制度です。土地の価値が実質5分の1になるため、都市部に一戸建てやマンションを持っている場合に絶大な効果を発揮します。
誰が土地を相続するかによる「要件」の違い
この特例は、土地を引き継ぐ人(取得者)の立場によって要件の厳しさが大きく変わります。
| 取得者の立場 | 主な適用要件 | 難易度・特徴 |
| 配偶者 | 無条件で適用。 別居していても、相続後にすぐ土地を売却しても適用可能。 | 一番確実で使いやすい |
| 同居の親族 (一緒に住んでいた子など) | 相続税の申告期限(10ヶ月)まで、その家に住み続け、かつ土地を保有し続けること。 | 単なる一時的な住民票の移動などは不可 |
| 別居の親族 (通称:家なき子) | 1. 亡くなった人に配偶者も同居親族もいないこと 2. 相続前3年間に「自分や配偶者の持ち家」に住んだことがないこと 3. 申告期限まで土地を保有すること | 賃貸暮らしの子などを救済する非常に厳格な要件 |
実務における注意点
特例適用による「税額0円」でも申告は必須
「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」は、期限内(死亡を知った翌日から10ヶ月以内)に相続税申告書を税務署へ提出して初めて適用が認められます。「計算上0円になるから申告不要」と誤認して放置すると、特例が受けられず後から高額な課税がなされるため留意が必要です。
二次相続(2回目の相続)を見据えた遺産分割
1回目の相続(一次相続)で、配偶者の無税枠を理由に全ての財産を配偶者に集中させると、将来その配偶者が亡くなった時(二次相続)に子供への税負担が跳ね上がります。二次相続では「配偶者控除」が使えない上、子供側の「基礎控除額」も減るためです。「一次・二次トータルの税額」をシミュレーションした上で分割割合を決めるのが鉄則です。