たった1日の差で受取額が激変?定年退職前に知っておきたい「失業保険」の分岐点

定年退職の日を「いつにするか」。実は、この日がたった1日ずれるだけで、受け取れる失業保険の金額が数十万円単位で変わる可能性があることをご存知でしょうか。

「長年勤めたのだから、キリ良く定年当日に辞めるのが一番」と考えがちですが、雇用保険のルールを知っているかどうかで、セカンドライフの軍資金に大きな差がつきます。今回は、FPの視点から「1日の差」がもたらす給付制度の違いを詳しく解説します。

目次

1. 運命を分ける「65歳の壁」と2つの給付金

失業保険(雇用保険)には、退職時の年齢が「65歳になる前」か「後」かによって、全く異なる2つの制度が用意されています。

① 64歳まで:手厚い「基本手当」

「まだ現役として働きたい」という方を支援する、いわゆる一般的な失業保険です。

  • もらえる日数:勤続20年以上なら最大150日分
  • 特徴:給付日数が非常に長く、受取総額が大きくなるのが最大の魅力です。
  • 注意点:受給中は「老齢厚生年金」が全額停止されるため、年金との併用はできません。

② 65歳から:年金と両立できる「高年齢求職者給付金」

65歳以降に退職した方のための特例的な給付です。

  • もらえる日数:勤続1年以上なら一律で50日分
  • 特徴:基本手当に比べ日数は少ないですが、「年金と満額併用できる」のが強み。一括で受け取れるため、手続きもスムーズです。

2. なぜ「1日」で変わるのか?法律が定める年齢の数え方

なぜ、たった1日の違いがこれほど大きな差を生むのでしょうか。それは、日本の法律における「年齢の数え方」に理由があります。

法律上、人は「誕生日の前日の午前0時」に1歳年を取ると定められています。

  • 64歳(基本手当 150日)の対象:誕生日の前々日までに退職
  • 65歳(高年齢給付金 50日)の対象:誕生日の前日以降に退職

例えば4月1日が誕生日の方なら、3月30日に辞めれば「64歳(150日分)」、3月31日に辞めれば「65歳(50日分)」という判定になります。このわずか1日の退職日の設定が、受取日数の「100日分の差」を生み出す正体なのです。

3. 【比較】わずか数日の違いで「最大100日分」の差が出る

退職日が「誕生日の2日前(64歳)」か「それ以降(65歳)」かで、受け取れる給付の種類と日数がこれだけ変わります。

金額シミュレーション

失業保険の日額が6,000円、年金の月額が15万円(日額5,000円相当)の人の場合:

• 64歳退職(150日分): 6,000円 × 150日 = 90万円

• 65歳退職(50日分): 6,000円 × 50日 = 30万円

その差はなんと60万円。わずか数日の退職日のズレが、これほど大きな差を生むのです。

比較項目 基本手当(64歳まで) 高年齢求職者給付金(65歳〜)
最大給付日数 150日 50日
年金との関係 年金が停止される 年金と両方満額もらえる
受給方法 分割(ハローワークに通学) 一括で受け取り

4. 【FPが比較】結局、どちらが本当にお得?

どちらが得かは、あなたの「退職後のビジョン」によって決まります。

A. 「基本手当(64歳まで)」が向いている人

• 再就職への意欲が高い方: 日数が多い分、腰を据えて仕事探しができます。

• 手取り総額を最大化したい方: 年金が一時停止しても、失業保険の総額(150日分)の方が年金額より高い場合、トータルの受取額は多くなります。

B. 「高年齢求職者給付金(65歳以降)」が向いている人

• 年金を確実に満額受け取りたい方: 支給停止のリスクを負いたくない方に適しています。

• 手続きをシンプルにしたい方: 何度もハローワークに通う手間を省き、一括で資金を受け取りたい方向けです。

5. 【要注意】「定年規定」は会社によって千差万別!

ここまで制度の違いを解説しましたが、実は最も重要なのは**「あなたの会社の定年規定」**です。

失業保険でどちらの給付を受けられるかは「退職日」で決まりますが、その退職日は会社が就業規則で自由に決めています。

• 「誕生日当日」が定年の会社

• 「誕生月の月末」が定年の会社

• 「年度末(3月31日)」が定年の会社

例えば、あなたが「150日分の基本手当をもらいたい」と思っても、会社の定年規定が「月末退職」であれば、誕生日が月の中旬なら自動的に「65歳での退職」となってしまいます。

もし、制度を優先して定年日より数日早く辞める(自己都合退職)選択をする場合は、**「退職金が自己都合扱いで減額されないか」「定年後の再雇用権利を失わないか」**という点もセットで考えなければなりません。

  • 「誕生日当日」が定年の会社もあれば、「月末」や「年度末」を定年とする会社もあります。
  • 自分の会社の規定で、退職日が「いつ」になるのかをまず把握しましょう。
  • もし規定より数日早めて辞める(自己都合退職)場合、「退職金が減額されないか」「再雇用の権利を失わないか」という点は非常に重要なチェックポイントになります。

まとめ:後悔しないために「就業規則」の確認を!

失業保険の選択は、単なる金額の比較だけでなく、あなたの退職後のライフスタイルや、会社の制度と密接に関わっています。

「150日分もらえるから64歳で辞めるのが絶対にお得」といったネットの情報だけを鵜呑みにせず、まずは以下のステップを踏んでみてください。

1. 就業規則を確認する: 自分の「定年退職日」がいつに設定されているか。

2. 人事担当者に相談する: 数日退職を早めた場合、退職金や再雇用に影響が出るか。

3. 年金事務所で確認する: 自分がもらえる年金額を知り、停止された場合の損得を計算する。

一生に一度の定年退職。納得のいく形でセカンドライフのスタートを切れるよう、早めの準備を心がけましょう。

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この記事を書いた人

本サイトを運営している現役FP

■経歴■
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立。

商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!

■保有資格■
-FP1級技能士
-CFP®
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-宅地建物取引士
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