【2026年改正対応】退職金とiDeCo、両方受取る人は要注意!税金で損をしないための「出口戦略」の新ルール

「長年勤めた会社からの退職金」と「自分でコツコツ積み立てたiDeCo(確定拠出年金)」。どちらも老後の貴重な資産ですが、実はこの2つ、受取るタイミング次第でかかる税金が大きく変わることをご存知でしょうか。

特に2026年(令和8年)1月からは、これまで「5年あければ大丈夫」と言われていたルールが「10年」に延長されます。知らずに受取ると、本来引けるはずの控除が削られ、手取り額が減ってしまうかもしれません。

今回は、FPの視点から「退職所得」の複雑な計算ルールと、損をしないためのポイントを分かりやすく解説します。


目次

1. 退職所得控除の「基礎」と「繰り上げルール」

退職所得は、他の所得に比べて税負担が非常に軽く設定されています。その計算の要となるのが「退職所得控除」です。

退職所得の計算式

退職所得の金額は、以下の数式で算出されます。

$$(受取金額 – 退職所得控除額) \times \frac{1}{2} = 退職所得の金額$$

※この金額に所得税・住民税がかかります。

控除額の計算方法

  • 勤続20年以下の期間: 1年につき 40万円(最低80万円保障)
  • 勤続20年超の期間: 1年につき 70万円

【FPのポイント】1年未満の端数は「繰り上げ」で考える!
退職所得の計算において、勤続年数は「1日でもあれば1年」とカウントします。例えば、勤続20年と1日の場合、計算上は「21年」となります。この1日の差で控除額が70万円もアップするため、退職日の調整ができる場合はぜひ意識したいポイントです。


2. DBとDCが「両方ある時」が問題な理由

会社からの退職金(DB:確定給付企業年金など)と、iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)を両方受取る場合、それぞれの期間が重なっていると「退職所得控除の二重取り」を防ぐための調整が行われます。

この調整が行われる「期間」のルールが、受取る順番によって異なります。

① iDeCo(DC)を先に受取る場合:9年ルール(2026年〜10年ルール)

2026年1月1日以降、DCを先に受取り、その後に退職金を受取る場合、「前年以前9年以内」に受取った退職所得があるかどうかがチェックされます(※現行の5年から延長)。この期間内に受取りがあると、重複期間の控除が制限されます。

② 退職金を先に受取る場合:19年ルール

逆に、退職金を先に受取り、その後にDCを受取る場合はさらに厳しく、「前年以前19年以内」に受取った退職所得がチェック対象となります。つまり、20年空けないと控除をフル活用できません。


3. ケース別:退職所得シミュレーション

具体的にどう計算が変わるのか、3つのパターンで比較してみましょう。

【共通設定】
・Aさん:22歳入社、60歳定年(勤続38年)
・iDeCo:40歳加入、65歳まで拠出(加入期間25年)
・退職金:2,000万円 / iDeCo:500万円

パターン①:iDeCo受取から5年後に退職金を受取る場合

(60歳でiDeCo、65歳で退職金を受取るケース)

  • 60歳時(iDeCo 500万円): 控除額800万円(20年分)のため、税金0円
  • 65歳時(退職金 2,000万円):
    2026年以降、5年(前年以前9年以内)の受取は調整対象です。iDeCo加入期間(40歳〜60歳の20年間)と重複する期間の控除が差し引かれます。
    ・調整後の勤続年数:$43年 – 20年 = 23年$
    ・退職所得控除:$(20年 \times 40万円) + (3年 \times 70万円) = 1,010万円$
    ・課税対象:$(2,000万円 – 1,010万円) \times 1/2 =$ 495万円

パターン②:退職金受取から5年後にiDeCoを受取る場合

(60歳で退職金、65歳でiDeCoを受取るケース)

  • 60歳時(退職金 2,000万円): 控除額2,060万円(38年分)のため、税金0円
  • 65歳時(iDeCo 500万円):
    19年ルールの対象となり、重複期間(40歳〜60歳の20年間)が差し引かれます。
    ・調整後の加入期間:$25年 – 20年 = 5年$
    ・退職所得控除:$5年 \times 40万円 = 200万円$
    ・課税対象:$(500万円 – 200万円) \times 1/2 =$ 150万円

パターン③:退職金受取から5年後にiDeCo受取(みなし勤続年数あり)

退職金が少額だった場合、「みなし勤続年数」を使って計算を少し有利にできる可能性があります。

【条件】60歳時の退職金が 1,000万円 だった場合

  1. みなし勤続年数の計算: 1,000万円に対応する年数を逆算します。
    $(1,000万円 – 800万円) \div 70万円 + 20年 \approx 22.8年 \rightarrow$ 22年(切捨)
  2. 重複期間の算出: この22年間(38歳〜60歳と仮定)と、iDeCo(40歳〜65歳)の重複を計算します。重複は 20年間 です。
  3. iDeCoの控除額: 加入期間25年 $-$ 重複20年 $=$ 5年
    ・退職所得控除:$5年 \times 40万円 = 200万円$
    ・課税対象:$(500万円 – 200万円) \times 1/2 =$ 150万円

4. まとめ:賢く受け取るためのスケジュール管理

2026年の改正により、「iDeCoを先に受け取ってから、10年(前年以前9年)空けて退職金をもらう」というスケジュールが、最も税制メリットを活かせる王道ルートとなります。

しかし、会社の規定やライフプランによって、どうしても期間が重なってしまうこともあるでしょう。その場合は、一時金受取だけでなく、「年金受取(雑所得)」を組み合わせるなど、複数の選択肢をシミュレーションすることが大切です。

自分にとって最適な「出口」はいつなのか。法改正のタイミングを機に、一度プロのFPに相談して具体的な数字を出してみることをおすすめします。

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この記事を書いた人

本サイトを運営している現役FP

■経歴■
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立。

商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!

■保有資格■
-FP1級技能士
-CFP®
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-宅地建物取引士
-中小企業診断士
-貸金業務取扱主任者

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