75歳を迎え、年金受給にも慣れてきた頃かと思います。
しかし、日本年金機構から送られてくる「年金振込通知書」を見て「思っていたより振込額(手取り)が少ないな」と感じたことはありませんか?
それは、年金の「額面(総支給額)」から税金や社会保険料が自動的に「天引き(特別徴収)」されているためです。
この記事では、いったい何が、どのような理由で引かれているのか、特に75歳から新たに対象となる項目も含めて、4つの天引き項目をわかりやすく解説します。
年金から天引きされる「4つの項目」とは?

お受け取りになる年金から天引きされる(可能性がある)ものは、大きく分けて以下の4つです。
- 介護保険料(65歳以上の方)
- 国民健康保険料(条件を満たした世帯主)
- 所得税
- 住民税
このうち、1と2を「社会保険料」、3と4を「税金」と呼びます。
これらが引かれた後の金額が、ご自身の口座に振り込まれる「手取り額」となります。
【社会保険料】65歳で始まる「介護保険料」の天引き。国保はどうなる?

社会保険料が年金から天引きされるのは、原則として年間の年金受給額が18万円以上の方ですが、65歳と75歳では引かれる内容やルールが少し異なります。
① 介護保険料
65歳に到達すると、それまで加入していた健康保険料と一緒に納めていた介護保険料が切り離され、原則として全員、年金からの天引き(特別徴収)に切り替わります。
65歳になってすぐに天引きが始まるわけではありません。手続きの都合上、半年〜1年程度は市区町村から届く納付書で支払う期間(普通徴収)があり、その後自動的に年金天引きへ移行します
② 国民健康保険料
会社を退職して国民健康保険に加入している場合、保険料が年金から天引きされるのは、以下の条件をすべて満たした方のみです。
1.あなたが国民健康保険の世帯主であること
2.同じ世帯の国保加入者全員が65歳〜74歳であること
(例:妻が64歳以下の場合は、天引きされません)
3.介護保険料と国民健康保険料の合計額が、年金受給額の半分を超えていないこと
条件に当てはまらない場合
天引きは行われず、これまで通り「納付書」または「口座振替」での支払いとなります。
また、自治体によっては、申請すれば天引きを止めて口座振替を選べる場合もあります。
75歳になったらどうなる?
それまで加入していた国民健康保険や、会社のご家族の健康保険(被扶養者)から切り替わり、全員が「後期高齢者医療制度」に加入します。この制度の保険料が、75歳から新たに年金天引きの対象となります。
【税金】年金から「所得税・住民税」が引かれるのはなぜ?

「年金は老後の生活費なのに、なぜ税金が引かれるの?」と疑問に思う方も多いかもしれません。
税法上、老齢年金は「雑所得(ざつしょとく)」という扱いで、課税の対象とされています。そのため、一定以上の金額を受け取っている場合は、税金も天引きされるのです。
所得税
所得税は「今年の見込み額」に対して源泉徴収されます。65歳以降の場合、天引きの目安となる年収は約158万円(※)であり、これを超えると天引きの対象となる可能性があります。
※公的年金等控除110万円+基礎控除48万円=158万円
(この金額までは所得が0円になるため)
住民税
住民税は「前年の所得」に基づいて計算されます。
前年の年金収入などで住民税が課税される場合、年金が年18万円以上であれば原則として天引きされます。
税金が「引かれる人」と「引かれない人」の大きな違い

所得税の天引き(源泉徴収)において、最も重要になるのが「扶養親族等申告書」です。
同じ年金額、例えば290万円を受け取っていても、
- Aさん:所得税が天引きされる
- Bさん:所得税が0円になる
というケースがあります。この違いを生むのが「扶養親族等申告書」なのです。
鍵を握る「扶養親族等申告書」
これは、「配偶者を養っています」「70歳以上の親を扶養しています」といったご家族の状況や、「ご自身が障害者手帳を持っています」といった個人の状況を、日本年金機構に申告するための書類です。
提出した場合
配偶者控除や扶養控除、障害者控除などが適用され、その分、税金の計算の元となる「所得」が減ります。
控除額が大きければ、年金が290万円あっても所得税が0円になり、天引きされません。
提出しなかった場合
これらの控除が一切適用されません。
そのため、年金額に対して高めの税率で所得税が計算され、天引きされてしまいます。
(※この場合、確定申告をすれば税金が戻ってくる可能性があります)
まとめ:自分の天引き額は「年金振込通知書」で必ず確認を
いかがでしたでしょうか。
年金から天引きされるのは、「国民健康保険料」「介護保険料」「所得税」「住民税」の4つも存在します。
社会保険料は、年金が年18万円以上の方が対象であり、所得税は年金が年158万円を超える場合でも、「扶養親族等申告書」の提出内容によって0円になるケースがあります。
何が、いくら引かれているのかを正確に把握することは、ご自身の家計を管理する上で非常に大切です。お手元に届く「年金振込通知書」には、天引きされた項目と金額が必ず記載されています。ぜひ一度、じっくりと内容をご確認ください。
