「年利5%で右肩上がり」は嘘? 多くの投資シミュレーションが間違っている理由

「毎月5万円を、年利5%で20年間積み立てると、資産は約2,000万円になります」

証券会社のサイトや、ファイナンシャルプランナーが使う「資産運用シミュレーション」。
きれいな右肩上がりのグラフを見て、「これなら老後は安泰だ」と安心していませんか?

はっきり言います。
そのシミュレーションは、現実とは違います。

なぜなら、現実の相場は毎年きれいに「5%ずつ」増えるわけではないからです。
+20%増える年もあれば、−15%減る年もあります。

もし、積立が終わる直前の「一番お金が貯まっている時期」に大暴落が来たら?
「平均5%」という計算上は正しくても、あなたの手元に残るお金はシミュレーションより数百万円も少なくなる可能性があります。

多くのシミュレーションが無視している、この「不都合な真実」。
今日は、それを解決するための「モンテカルロ法」と、正しいリスクの測り方について解説します。

目次

投資の未来は「平均点」だけでは語れない

まず、投資における「リスクとリターン」の関係を理解するために、皆さんが学生時代に経験した「テストの点数」を思い出してください。

実は、投資の仕組みはテストの点数と全く同じ構造をしています。

例えば、あるテストで「平均点が60点のクラス」があったとします。
「平均60点」と聞いて、あなたはどんなクラスを想像しますか?

実は、「平均60点」には全く異なる2つのパターンがありえます。

パターンA:全員の実力が近い「安定クラス」

  • A君:58点
  • Bさん:62点
  • C君:60点
  • → 全員が55点〜65点くらいの間に収まっていて、平和です。

パターンB:天才と赤点が入り混じる「波乱クラス」

  • D君:100点(天才)
  • Eさん:0点(赤点)
  • F君:80点
  • → 平均すると60点ですが、中身はバラバラで不安定です。

ここが重要なポイントです。
「平均点は同じ60点」でも、その中身(安定感)は天と地ほど違います。

これを投資に置き換えてみましょう。

  • 平均点 = 「リターン(期待収益率)」
  • 点数のバラつき具合 = 「リスク(標準偏差)」

多くの人は、投資商品を選ぶときに「平均点(リターン)」ばかりを見てしまいます。「この商品は年利5%です!」と言われると魅力的に見えますよね。
しかし、その中身が「パターンA(安定)」なのか、「パターンB(波乱万丈)」なのかを確認しないのは非常に危険です。

もし、あなたが「パターンB」のような商品を選んでしまったら、平均では儲かる計算でも、タイミングが悪ければ「0点(大暴落)」を引く可能性があるからです。

だからこそ、投資では「リターン(平均)」だけでなく、必ず「リスク(バラつき)」をセットで見なければならないのです。

「正規分布」は「偏差値」の感覚そのもの

この「バラつき」を予測するために、統計学の「正規分布」というルールを使います。
これは、いわゆる「偏差値」の感覚で考えると一発で分かります。

正規分布とは、「極端に良い点数の人も、極端に悪い点数の人も少なく、多くの人は平均点(偏差値50)の近くに集まる」という法則です。

これを数字で見ると、こうなります。

  • 1シグマ(偏差値40〜60くらい):
    クラスの約68%(3人に2人)の生徒は、この範囲の点数に収まります。「普通の成績」の範囲です。
  • 2シグマ(偏差値30〜70くらい):
    クラスの約95%の生徒は、この範囲に収まります。偏差値70超えの天才や、30未満の赤点は滅多にいません。
正規分布と標準偏差の図解(ベルカーブ)

投資もこれと同じです。
リターン(平均点)だけでなく、「その商品はどれくらい点数がバラつくクラスなのか(標準偏差)」を知っておけば、

「95%の確率で、偏差値30(=最悪の損失)のラインはこの辺りだろう」

と、あらかじめ損失の底が見えるようになります。
これが「リスクを管理する」ということです。

1万通りの未来を描く「モンテカルロ法」

単年の「バラつき」は分かりました。では、これが20年続くとどうなるのでしょうか?
「平均5%」の固定計算ではなく、「良い年も悪い年もランダムに来る」という現実的な動きを計算するために使うのが「モンテカルロ法」です。

これは、コンピュータの中で「サイコロを1万回振って、1万通りのパラレルワールドを作るシミュレーション」です。

  1. 設定したリターンとリスクに基づいて、毎年の相場変動をランダムに発生させる。
  2. それを20年分繰り返す。
  3. このセットを1万回行う。

すると、結果はきれいな一本線ではなく、ラッパのように広がった「帯」として描かれます。

モンテカルロ法による資産推移シミュレーションのグラフ
  • すごく運が良かった世界(上位数%)
  • まあまあの世界(中央値)
  • 最悪の暴落が続いた世界(下位数%)

あらゆる可能性をすべて可視化するのです。

シミュレーションで見るべきは「最悪のケース」

モンテカルロ法で最も重要なのは、「下位5%(ワーストケース)」のラインを見ることです。

多くの人はシミュレーションの「真ん中の線(平均)」を見て安心しようとしますが、投資計画で大事なのは「ものすごく運が悪くても、最低限これだけは残る」というラインを知っておくことです。

もし、「下位5%のシナリオ(運が悪かった場合)」でも、あなたの老後資金が最低限確保できているなら、その投資計画は「成功する確率が極めて高い」と言えます。

逆に、平均値ではクリアしていても、下位20%のシナリオで破綻するなら、その計画はリスクを取りすぎています。

まとめ:右肩上がりの幻想を捨てよう

「多くのシミュレーションは間違っている」と言った理由は、それが「運の要素(リスク)」を無視しているからです。

投資は、一直線に資産が増えるゲームではありません。
良い時も悪い時も繰り返しながら、凸凹しながら進んでいくものです。

「右肩上がりのグラフ」という幻想を捨て、「幅(リスク)」を受け入れた時、投資の恐怖は「管理できる計画」に変わります。

これからの20年、どんな相場が来るかは神様しか知りません。
しかし、モンテカルロ法のような視点を持っていれば、一時的な暴落に狼狽することなく、冷静にゴールを目指せるはずです。


(編集後記)Pythonで計算してみよう

実はこの「モンテカルロ法」、プログラミング言語のPython(パイソン)を使えば、自分のパソコンで計算してグラフを描くことができます。

私も最近Pythonを勉強中なのですが、自分でコードを書いてシミュレーションしてみると、「リスクとリターン」の仕組みが驚くほど直感的に理解できるようになります。
興味がある方は「Python モンテカルロ法」などで検索してみるのも面白いかもしれません。

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この記事を書いた人

本サイトを運営している現役FP

■経歴■
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立。

商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!

■保有資格■
-FP1級技能士
-CFP®
-証券外務員一種
-宅地建物取引士
-中小企業診断士
-貸金業務取扱主任者

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