「配当控除」完全ガイド:仕組み・条件から、損をしないための課税方式比較まで

株の配当金を受け取った際、通帳に記載された金額を見て「意外と税金(約20%)が引かれているな」と感じたことはないでしょうか。この税金の一部を取り戻せる可能性がある仕組み、それが「配当控除」です。

しかし、配当控除は「申請すれば誰でも得をする」という単純なものではありません。選択する課税方式や、ご自身の所得水準、さらには加入している社会保険の種類によって、「税金は安くなったけれど、保険料が高くなってトータルで損をした」という逆転現象が起こり得るからです。

本記事では、配当控除の基本的な仕組みから、2024年(令和6年)の税制改正を踏まえた最新の注意点、そして「自分は確定申告をすべきか否か」を判断するための比較ポイントを徹底解説します。

目次

配当控除とは?「二重課税」を解消する税制の仕組み

配当控除を一言でいえば、「企業と個人で二重に徴収されている税金を調整し、払いすぎた分を返してもらう制度」です。

多くの投資家が「配当金からは約20%の税金が引かれるもの」と考えていますが、実はその前段階で、その配当の元となる利益にはすでに税金が課されています。

「二重課税」が発生するメカニズム

なぜ普通に配当を受け取るだけで「二重課税」になってしまうのか。その流れは以下の通りです。

二重課税のメカニズム

1. 企業の段階(法人税)
会社が利益を上げると、まず国などに「法人税」を支払います。

2. 配当の段階
法人税を差し引いた「残りの利益」から、株主に配当金が支払われます。

3. 個人の段階(所得税・住民税)
株主が受け取る配当金に対して、さらに「所得税・住民税」が課税されます。

このように、もともと同じ一つの利益に対して、「出口(法人)」と「入り口(個人)」の両方でフルに課税されるのは不公平である、という考え方が配当控除の根底にあります。

「所得控除」ではなく「税額控除」である強み

税金を安くする仕組みには大きく分けて2種類ありますが、配当控除はより節税効果が高い「税額控除」に分類されます。

2種類の「控除」

• 所得控除(例:生命保険料控除など)
税率をかける前の「所得」を減らす。

• 税額控除(配当控除)
計算された後の「税額」から、ダイレクトに金額を差し引く。

例えば、配当金の10%が控除される場合、計算された所得税が10万円で配当控除が1万円なら、納める税金はそのまま9万円になります。このように、支払うべき税金から直接引き算ができるため、非常に強力なメリットといえます。

配当控除の目的は「中立性」の維持

この制度があることで、企業が利益を内部に溜め込まずに配当として株主に還元しやすくなり、また個人投資家にとっても株式投資が不利にならないような「税制の中立性」が保たれています。

ただし、この「払いすぎた分を調整する」という性質上、「もともと所得税率が低い人ほど、戻ってくる金額(還付)が大きくなる」という特徴があります。

配当控除を受けられる「対象」と「条件」

配当控除は非常に強力な節税手段ですが、すべての投資に対して適用できるわけではありません。せっかく確定申告をしたのに「実は対象外だった」という事態を防ぐために、以下の2つの柱(銘柄の条件・手続きの条件)を確認しておきましょう。

対象となる配当・対象外の配当

この制度の目的は「日本の法人税」との二重課税を調整することにあります。そのため、日本国内で法人税を納めている企業からの配当が主な対象となります。

対象となるもの(〇)

日本国内に本店がある法人の配当
いわゆる国内株式(普通株式)の配当金。

国内株式投資信託の収益分配金
株式を中心に運用される投資信託の分配金(※外貨建て資産が一定以下のものに限る)。

対象外となるもの(×)

• 外国株式の配当
アップルやマイクロソフトなど米国株をはじめとする外国株は、日本の法人税が課されていないため対象外です(代わりに「外国税額控除」を利用します)。

• J-REIT(不動産投資信託)の分配金
REITは仕組み上、利益のほとんどを配当することで法人税を実質免除されているため、二重課税が発生しておらず、控除も受けられません。

• 公社債投資信託の分配金
国債や社債の利息に近い性質を持つため、配当控除の枠組みからは外れます。

• NISA口座内の配当
そもそも最初から非課税であるため、控除を重ねて受けることはできません。

必須の手続き:「総合課税」を選択しての確定申告

配当控除を受けるためには、受け取り時の「源泉徴収(申告不要)」の状態から抜け出し、自ら確定申告を行う必要があります。その際、課税方式として必ず「総合課税」選択しなければなりません。

申告の種類

• 総合課税: 給与所得など他の所得と合算して計算する方式。ここで初めて「配当控除」が適用されます。

• 申告分離課税: 配当を他の所得と分け、一律の税率(約20%)で計算する方式。配当控除は受けられませんが、株の売却損と相殺(損益通算)したい場合に選ばれます。

1,000万円という「境界線」の注意点

第1章で触れた「控除率」は、この確定申告時の「課税所得金額」によって変動します。

• 1,000万円以下の部分: 所得税から配当金の 10% を控除

• 1,000万円を超える部分: 所得税から配当金の 5% を控除

この「1,000万円」の判定には、お給料などの所得だけでなく、合算した配当所得も含まれる点に注意が必要です。

【比較】配当にかかる3つの課税方式

配当金を受け取った際、私たちは「どのように税金を納めるか」を3つの選択肢から選ぶことができます。配当控除を活用したい場合は「総合課税」を選びますが、他の方式にもそれぞれメリットがあります。

自分にとって最適な方法はどれか、以下の比較表と解説で確認してみましょう。

3つの選択肢の比較表

項目① 申告不要(源泉徴収)② 総合課税(配当控除)③ 申告分離課税
主なメリット手間がかからない所得税が還付される株の売却損と相殺できる
配当控除利用不可利用可能利用不可
所得税率15.315%(固定)5%〜45%(累進課税)15.315%(固定)
住民税率5%(固定)10%(固定)5%(固定)
社会保険料影響なし増える可能性あり増える可能性あり

各方式の特徴と使い分け

① 申告不要制度(源泉徴収のみで完結)

最も一般的な方法です。証券会社の「源泉徴収ありの特定口座」で配当を受け取れば、自動的に約20%の税金が引かれ、納税が完了します。

➤向いている人
確定申告の手間を省きたい人、高所得で総合課税にすると税率が上がってしまう人、社会保険料(国民健康保険など)のアップを避けたい人。

② 総合課税(配当控除を適用)

給与所得など他の所得と配当金を合算して計算する方法です。ここで初めて「配当控除」を適用できます。

➤向いている人
所得税率が低い人(目安として課税所得が900万円以下)。配当控除の10%を差し引くことで、源泉徴収された税金が戻ってくる可能性が高くなります。

③ 申告分離課税(損益通算を適用)

配当金を他の所得とは切り離し、一律約20%の税率で計算する方法です。配当控除は受けられませんが、「株を売って出た赤字(譲渡損失)」と配当金を相殺できます。

➤向いている人
その年に株で大きな損失が出た人、または過去3年以内の損失を繰り越している人。

2024年からの重要な変更点

以前は「所得税は総合課税で配当控除を受け、住民税は申告不要にして税率を低く抑える」という、いいとこ取りの「併用」が可能でした。しかし、2024年(令和6年)分からは所得税と住民税で課税方式を一致させなければならないというルールに変わりました。

この改正により、「総合課税を選んで所得税を安くしても、住民税が高くなってトータルで損をする」ケースが増えたため、より慎重な比較が必要になっています。

【比較】所得金額によって変わる「控除率」と「実質税率」

配当控除を最大限に活用できるかどうかは、その年の「課税所得金額」にかかっています。所得が増えるほど所得税率が上がる一方で、配当控除の「割引率」は下がってしまうという二重の構造があるためです。

ここでは、混同しやすい「1,000万円の壁」と「実質税率」の関係を整理します。

課税所得1,000万円を境に変わる「控除率」

配当控除には、高所得者が過度に優遇されるのを防ぐため、所得に応じて控除率を段階的に下げる仕組みがあります。

配当控除の1,000万円の壁

• 課税所得が1,000万円以下の部分
配当金の 10% を所得税から控除

• 課税所得が1,000万円を超える部分
配当金の 5% を所得税から控除

ここで重要なのは、1,000万円を超えた瞬間にすべての配当の控除が5%になるわけではなく、「1,000万円を超えてはみ出した部分」の配当に対してのみ5%が適用されるという点です。

所得税率(累進課税)との「逆転現象」に注意

配当控除(総合課税)を利用する場合、配当金はお給料などと同じ「累進課税」の対象になります。所得が増えれば税率も上がるため、どこかのタイミングで「源泉徴収(15.315%)」のままにしておくよりも税金が高くなってしまいます。

以下の表は、所得税における「所得税率 - 配当控除率」の実質的な負担を比較したものです。

課税所得の範囲所得税率(A)配当控除(B)実質所得税(A-B)源泉徴収(比較)
195万円以下5%10%△5%(還付)15.315%
195万〜330万円10%10%0%15.315%
330万〜695万円20%10%10%15.315%
695万〜900万円23%10%13%15.315%
900万〜1,000万円33%10%23%15.315%
1,000万円超〜33%〜5%28%〜15.315%

損得のボーダーラインは「900万円」

上の表を見ると、所得税だけで考えた場合、課税所得が**900万円を超えると実質税率が23%**となり、源泉徴収(15.315%)を大きく上回ってしまいます。

つまり、年収が高くなってくると「配当控除(10%)」というボーナスをもらっても、それを上回る高い税率が課されてしまうため、あえて確定申告をしない(申告不要制度)ほうが手残りが多くなるのです。

さらに、ここに**「住民税」の負担**が加わることで、実質的な損得の判定はさらにシビアになります。

【比較】「税金が安くなる人」vs「トータルで損をする人」

配当控除の計算で「所得税が還付される」と分かっても、まだ安心はできません。確定申告によって「合計所得金額」が増えることで、税金以外の支払額が跳ね上がり、トータルで赤字になるケースがあるからです。

ここでは、実質的な損得を分ける「3つのリスク」を比較します。

住民税の「一律10%」という壁

所得税は所得が低いほど税率が下がりますが、住民税は所得に関わらず一律で10%です。

• 総合課税(配当控除): 住民税10% - 配当控除2.8% = 実質 7.2%

• 申告不要(源泉徴収): 住民税 5%

つまり、住民税だけを見ると、配当控除を使っても**「2.2%分」は源泉徴収のままのほうが安い**ということになります。所得税の還付額がこの住民税の増額分を上回らなければ、確定申告をするメリットはありません。

社会保険料(国保・介護保険)の跳ね上がり

会社員で「職場の健康保険(社会保険)」に入っている方は影響ありませんが、自営業やリタイア世代で**「国民健康保険(国保)」**に加入している方は要注意です。

• 申告不要: 配当金は所得にカウントされず、保険料は上がりません。

• 総合課税: 配当金が「所得」として算入され、翌年の保険料が増額されます。

還付される所得税が数万円であっても、保険料がそれ以上にアップしてしまえば、結果として手残りは減ってしまいます。

扶養控除や配偶者控除の「取り消し」

家族の扶養に入っている方が、配当控除を受けるために確定申告を行うと、その配当金が「所得」としてカウントされます。

• 所得の合計が一定基準(48万円など)を超えてしまうと、扶養から外れることになります。

• その結果、世帯主(親や配偶者)の税金が増え、世帯全体で見ると大きなマイナスになるリスクがあります。

損得の判定リスト

項目確定申告(配当控除)で得する人申告不要(源泉徴収)が有利な人
所得水準課税所得が概ね695万円以下課税所得が900万円以上
社会保険勤務先の健康保険(社保)加入者国民健康保険の加入者
扶養関係誰の扶養にも入っていない人家族の扶養に入っている人
その他の控除住宅ローン控除を使い切りたい人面倒な手続きを避けたい人

2024年からの法改正:所得税と住民税の「一致」の影響

これまで「配当控除」を利用するかどうかを検討する際、多くの投資家が利用していた「節税の裏ワザ」がありました。しかし、2024年(令和6年度分)の確定申告から、そのルールが根底から覆されています。

かつて使えた「課税方式の使い分け」の廃止

以前までは、所得税と住民税でそれぞれ異なる課税方式を選ぶことができました。

• 所得税: 「総合課税」を選んで配当控除を受け、税金を還付してもらう

• 住民税: 「申告不要」を選び、一律5%の低い税率を維持し、さらに社会保険料のアップも防ぐ

この「いいとこ取り」の手法によって、多くの人が社会保険料の上昇を気にせずに配当控除の恩恵を受けられていました。しかし、税制改正により**「所得税と住民税の課税方式を一致させなければならない」**というルールに変更されたのです。

改正によって「実質的な増税」になるケース

この一致ルールにより、所得税で配当控除を受ける(総合課税を選ぶ)と、**自動的に住民税も総合課税(実質7.2%)**として扱われます。

これにより、以下のような影響が出ています。

1. 住民税率のアップ: 源泉徴収(5%)よりも、配当控除後の住民税(7.2%)の方が高くなる。

2. 社会保険料への連動: 住民税の計算に配当所得が算入されるため、国民健康保険料や介護保険料の算定基礎額が強制的に増えてしまう。

今後の「損得」の判断基準はどう変わる?

この改正を受け、配当控除を申請すべきかどうかのハードルは以前よりも格段に上がりました。

• 会社員の場合: 社会保険料への影響はないため、所得税の還付額(所得税率と10%控除の差)が住民税の増額分(2.2%)を上回るなら、依然として申告する価値があります。

• 自営業・リタイア世代の場合: 所得税の還付額よりも、**「住民税の増税 + 国保料の増額」**の合計が上回る可能性が非常に高くなっています。

今後は、「所得税だけで得か損か」を考えるのではなく、**「住民税と社会保険料まで含めたトータルコスト」**でシミュレーションすることが不可欠となっています。

まとめ:判断のためのチェックリスト

配当控除は、仕組みを正しく理解して活用すれば手残りを増やす強力な武器になります。しかし、2024年の改正以降、その損得勘定はよりシビアになりました。

最後に、あなたが確定申告(総合課税)をすべきか、あるいは源泉徴収のまま(申告不要)にすべきか、3つのステップでチェックしてみましょう。

Step 1:銘柄と口座の確認

• [ ] 受け取った配当は「日本国内の普通株式」ですか?(外国株やJ-REITは対象外)

• [ ] NISA口座以外の「特定口座」や「一般口座」で受け取っていますか?

Step 2:所得金額の確認(損得の分岐点)

• [ ] 課税所得金額が 695万円以下: 所得税の還付効果が高いため、配当控除を受けるメリットが大きいです。

• [ ] 課税所得金額が 695万〜900万円: 所得税と住民税を合わせると、源泉徴収(約20%)とほぼ同等か、わずかな得になります。手間を考慮して判断しましょう。

• [ ] 課税所得金額が 900万円超: 累進課税の税率が勝るため、配当控除を受けても逆に税金が高くなる可能性が高いため、申告不要が推奨されます。

Step 3:税金以外のコスト確認(最大の落とし穴)

• [ ] 社会保険の種類: 国民健康保険(自営業・リタイア世代など)ですか?申告すると保険料が上がるリスクがあります。勤務先の健康保険(社保)であれば、配当を申告しても保険料は変わりません。

• [ ] 扶養の状況: 誰かの扶養に入っていますか?配当を所得に算入することで、扶養から外れてしまうリスクがないか確認が必要です。

おわりに:迷ったら「トータル」で考えよう

配当控除を検討する際は、目先の「所得税の還付」だけでなく、「住民税の増額」と「社会保険料への影響」を合算したトータルコストで判断することが不可欠です。

特に2024年からは、所得税と住民税の課税方式を分けることができなくなったため、これまで「得をしていた」人も、改めて自分の所得水準と保険の種類を再点検してみてください。

もし判断に迷う場合は、一度ご自身の源泉徴収票を手元に置き、e-Taxなどのシミュレーション機能を活用して、入力後の「納税額」と「翌年の保険料」の推移を予測してみることをおすすめします。

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この記事を書いた人

本サイトを運営している現役FP

■経歴■
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立。

商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!

■保有資格■
-FP1級技能士
-CFP®
-証券外務員一種
-宅地建物取引士
-中小企業診断士
-貸金業務取扱主任者

詳しいプロフィールはこちらのリンクをご覧ください。

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