「会社が儲かったら税金を払う」ことは分かっていても、具体的に「何に対して」「何パーセント」の税金がかかるのか、正確に把握できている経営者の方は意外と少ないものです。
実は、会社が払う税金(いわゆる実効税率約30〜34%)は、以下の5種類の税金の積み上げで構成されています。
- 法人税(国税)
- 地方法人税(国税)
- 法人住民税(地方税)
- 法人事業税(地方税)
- 特別法人事業税(国税)
今回は、これら5つの税金がどのように計算されるのか、その全体像と詳細をわかりやすく解説します。
1. 全体像:税金は「何」にかかるのか?
計算に入る前に、各税金が「何(課税標準)」に対して掛け算されるのかを整理しましょう。ここが最大のポイントです。
| 税金の種類 | 区分 | 何にかかる?(課税標準) |
|---|---|---|
| ① 法人税 | 国税 | 所得(利益+調整) |
| ② 地方法人税 | 国税 | ①の法人税額 |
| ③ 法人住民税 | 地方税 | ①の法人税額 + 資本金等の額 |
| ④ 法人事業税 | 地方税 | 所得 |
| ⑤ 特別法人事業税 | 国税 | ④の法人事業税額 |
このように、「黒字の所得」に直接かかるものと、「計算された税額」に対してさらにかかるものがあるため、計算が複雑になるのです。
2. 各税金の詳細と計算方法
それでは、一つずつ詳しく見ていきましょう。(※以下は、資本金1億円以下の中小法人を前提とした一般的な税率で解説します)
① 法人税(国税)
会社の「所得(益金-損金)」に対して課される、最も基本となる税金です。
- 計算式
-
課税所得 × 税率
- 税率(中小法人の場合)
-
年800万円以下の部分:15.0%
年800万円超の部分:23.2%
② 地方法人税(国税)
名前に「地方」とついていますが、国に納める税金です(国が地方に配分します)。
- 計算式
-
①法人税額 × 税率
- 税率
-
一律 10.3%
③ 法人住民税(地方税)
会社が所在する都道府県と市町村に納める税金です。「地域社会の会費」のような性格を持ちます。これには2つの構成要素があります。
- 法人税割
-
法人税額に応じて負担する部分。※計算式:①法人税額 × 税率(自治体によるが約7.0%〜)
- 均等割
-
赤字でも必ず払う部分。資本金や従業員数で決まる。※例:資本金1,000万円以下、従業員50人以下なら約7万円。
④ 法人事業税(地方税)
事業を行うことに対して、利用する公共サービス(道路や消防など)の経費を負担する税金です。
- 計算式
-
課税所得 × 税率
- 税率(標準税率の例)
-
所得400万円以下:3.5%
所得800万円以下:5.3%
所得800万円超 :7.0%
⑤ 特別法人事業税(国税)
地域間の税収格差を是正するために2019年に新設された税金です。
- 計算式
-
④法人事業税額(所得割額)× 税率
- 税率
-
37%
5つの税金の中のうち、法人事業税と特別法人事業税は、支払った年度の「経費(損金)」に算入できます。 これが節税効果を持ちます。
3. 【シミュレーション】利益1,000万円の場合の計算例
実際に数字を入れて計算してみましょう。
前提条件: 東京23区内の中小企業、所得1,000万円、資本金1,000万円以下
1. 法人税の計算
- 800万円 × 15% = 120万円
- 200万円 × 23.2% = 46.4万円
- 法人税額 = 166万4,000円
2. 地方法人税の計算
- 166万4,000円 × 10.3% = 17万1,300円(100円未満切り捨て)
3. 法人事業税の計算(東京都の例)
- 400万円 × 3.5% = 14万円
- 400万円 × 5.3% = 21.2万円
- 200万円 × 7.0% = 14万円
- 事業税額 = 49万2,000円
4. 特別法人事業税の計算
- 49万2,000円 × 37% = 18万2,000円(100円未満切り捨て)
5. 法人住民税の計算
- 法人税割:166万4,000円 × 7.0% = 11万6,400円
- 均等割:7万円(最低額)
- 合計 = 18万6,400円
合計納税額の目安
これら5つを合計すると、以下のようになります。
| 法人税 | 1,664,000円 |
| 地方法人税 | 171,300円 |
| 法人事業税 | 492,000円 |
| 特別法人事業税 | 182,000円 |
| 法人住民税 | 186,400円 |
| 合計納税額 | 2,695,700円 |
4. 「実効税率」の計算式と仕組み
ニュースなどで「法人税の実効税率は約30%」といった言葉を聞くと思いますが、単純にすべての税率を足し算すると、30%を超えてしまいます。
なぜ「実効税率」は単純な合計よりも低くなるのでしょうか?
ポイントは「損金算入」による節税効果
先ほど解説した通り、「法人事業税」と「特別法人事業税」は、支払った年度の経費(損金)になります。
経費になるということは、その分だけ翌年以降の課税所得が減り、税金が安くなることを意味します。
この「税金自体が経費になって税金を減らす効果」を加味して計算するのが、法定実効税率です。
実効税率の計算式
分母に「事業税」と「特別法人事業税」を含めることで、経費算入による減税効果を反映させます。
【法定実効税率の計算式】
法人税率 × (1 + 地方法人税率 + 住民税率) + 事業税率 × (1 + 特別法人事業税率)
1 + 事業税率 × (1 + 特別法人事業税率)
- 分子:すべての税金の表面税率の合計
- 分母:損金算入される「事業税」と「特別法人事業税」の分だけ、1より大きくなります。
分母が1より大きくなるため、割り算の結果(実効税率)は、単純な足し算(表面税率)よりも低い数値になります。これが、日本企業の実際の税負担率を示す指標として使われています。
まとめ:税理士との対話のために
法人税の計算は「所得にかかるもの」と「税額にかかるもの」が入り組んでおり、非常に複雑です。
しかし、「事業税は経費になるため、実効税率の計算では分母で調整される」といった仕組みを知っておくだけで、より深い経営判断が可能になります。
正確な税額計算や、御社に適用できる特別控除(賃上げ促進税制など)については、必ず顧問税理士に相談して確認するようにしましょう。