【事例】相続税計算の流れを具体的に解説!

被相続人が死亡し、被相続人が保有していた財産を相続人が取得した際、その相続人に対し取得した金額に応じて相続税が課税されます。

今回は、基本的な相続税額の計算の流れについて例を用いて解説します。

目次

前提条件

家系図

・被相続人(60歳)
・妻Aさん(55歳)
・長男Bさん(30歳)
・次男Cさん(25歳)
・三男Dさん(17歳)
・弟Eさん(56歳)

被相続人の遺言の内容

スクロールできます
Aさん自宅の土地・建物3,000万円
自社株(10万株)10,000万円
Bさん事業用の土地・建物6,000万円
自社株(10万株)10,000万円
墓所1,000万円
Cさん定期預金6,500万円
自動車500万円
Dさん定期預金5,000万円
Eさん普通預金900万円

【その他の条件】

  • 死亡退職金としてAさんに4,000万円支払われている
  • 契約者および被保険者が被相続人である保険契約からBさんに8,000万円の死亡保険金が支払われている
  • Bさんが葬儀費用1,000万円を負担した
  • 2年前にCさんは被相続人から1,000万円の現金を贈与された。その際177万円の贈与税を支払った
  • 被相続人は相続時精算課税は利用しておらず、債務もない

計算手順

① 課税価格の計算

各人が取得した財産を基に課税価格を算出します。

なお、ここでは実際に遺産として取得したものだけではなく、生前に贈与を受けた財産の加算や生命保険金の非課税枠、債務、葬式費用の負担による減算を反映させます。

スクロールできます
相続または遺贈により取得した財産
加算
みなし相続または遺贈により取得した財産
加算
被相続人からの相続開始前3年以内の贈与財産
加算
非課税財産(生命保険金・死亡退職金・墓所など)
減算
債務および葬式費用
減算
課税価格
Aさん13,000万円4,000万円▲2,000万円15,000万円
Bさん17,000万円8,000万円▲3,000万円▲1,000万円21,000万円
Cさん7,000万円1,000万円8,000万円
Dさん5,000万円5,000万円
Eさん900万円900万円
合計42,900万円12,000万円1,000万円▲5,000万円▲1,000万円49,900万円

生命保険金や死亡退職金の非課税枠は、法定相続人がそれを受け取った場合に適用できます。
元配偶者や相続放棄した相続人には適用できませんのでご注意ください
なお、非課税枠の金額は、相続人の中に相続放棄した人がいても、放棄が無かったものとして計算します

② 課税遺産総額の計算

課税価格の合計額から、相続税の基礎控除を差し引き、課税遺産総額を計算します。

課税遺産総額
=課税価格ー相続税の基礎控除(3,000万円+法定相続人×600万円)
=49,900万円ー5,400万円
=44,500万円

相続税の基礎控除の金額も、相続人の中に相続放棄した人がいたとしても相続放棄をしていないものとして計算します

③ 相続税の総額の計算

算出された課税遺産総額を法定相続分通りに相続したものと仮定して各人の相続税額を算出し、その合計額が今回の相続にかかる相続税の合計額となります。

法定相続分通りに計算した場合

Aさん ・・・ 44,500万円×1/2 = 22,250万円
Bさん ・・・ 44,500万円×1/6 = 7,416.7万円
Cさん ・・・ 44,500万円×1/6 = 7,416.7万円
Dさん ・・・ 44,500万円×1/6 = 7,416.7万円

各人の相続税額は?

Aさん ・・・ 22,250万円×45%-2,700万円 = 7,312.5万円
Bさん ・・・ 7,416.7万円×30%-700万円 = 1,525万円
Cさん ・・・ 7,416.7万円×30%-700万円 = 1,525万円
Dさん ・・・ 7,416.7万円×30%-700万円 = 1,525万円

➤相続税の総額は、
 7,312.5 万円+1,525万円+1,525万円+1,525万=11,887.5万円

④ 各人の算出税額の計算

各人の算出税額は、①で算出した各人の課税価格の割合で按分して算出します。

各人の算出税額は?

Aさん 11,887.5万円×15,000万円/49,900万円 ≒ 3,573.3万円
Bさん 11,887.5万円×21,000万円/49,900万円 ≒ 5,002.7万円
Cさん 11,887.5万円×8,000万円/49,900万円 ≒ 1,905.8万円
Dさん 11,887.5万円×5,000万円/49,900万円 ≒ 1,191.1万円
Eさん 11,887.5万円×900万円/49,900万円 ≒ 214.4万円

⑤ 各人の納付税額の計算

計算された算出税額から、配偶者控除や未成年控除などの税額控除および2割加算などを反映させ、最終的な各人の納付すべき税額を計算します。

スクロールできます
算出税額加算減算納付税額
Aさん3,573.3万円3,573.3万円
(配偶者控除)
0円
Bさん5,002.7万円5,002.7万円
Cさん1,905.8万円177万円
(相続3年以内に支払った贈与税額)
1,728.8万円
Dさん1,191.1万円10万円
(未成年控除)
1,181.1万円
Eさん214.4万円42.9万円
(2割加算)
257.3万円

相続税の税額控除

算出税額から控除できる相続税の税額控除には、以下の種類があります。

配偶者に対する税額控除

配偶者が相続財産を取得した場合、その配偶者の相続税額から、次の算式によって計算した額を控除することができます。なお、配偶者の税額軽減を適用することにより納付すべき相続税額が「0」となる場合であっても、相続税の申告書を提出する必要があります。

計算式

配偶者に対する税額軽減
=相続税の総額×(イ)または(ロ)のいずれか少ない額/課税価格の合計額

(イ)課税価格の合計額に配偶者の法定相続分を乗じて計算した金額または1億6千万円のいずれか多い方の金額
(ロ)配偶者の課税価格(相続税の申告期限までに分割されていない財産の価額は除く)

障害者控除


法定相続人に該当する人が85歳未満かつ障がい者である場合、一定額を算出税額から控除できます。

計算式

障害者控除
=10万円(※)×(85歳ー相続発生時の障がい者の年齢(1年未満は切捨))

※特別障がい者に該当する場合は20万円

未成年者控除

法定相続人に該当し、かつ未成年者である場合に算出税額から控除できます。

計算式

未成年者控除
=10万円×(18歳ー相続発生時の未成年者の年齢(1年未満は切捨))

なお、すでにこの控除を受けたことがある場合、次の相続の際に控除できる金額は、前回の相続時の未成年者控除額のうち、前回発生した相続税額を超過した金額の範囲内に限られます。
また、未成年者控除額が、その未成年者本人の相続税額より大きく、控除額の全額が引き切れない場合は、その引き切れない部分の金額をその未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引くこともできます。

贈与税額控除

相続開始前3年以内の贈与財産について課せられた贈与税がある場合には、その人の相続税額からその贈与税額を控除することができます。
なお、令和5年の税制改正により、2024年1月1日以降の贈与された財産を対象に相続開始前7年以内に贈与された財産を相続財産の持ち戻します。ただし、相続開始前4年から7年の間に贈与された財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した金額を相続財産に持ち戻します。

相次相続控除

例えば夫が死亡した後すぐに妻が死亡したなど、同じ財産について10年以内に2回以上の相続が発生した場合は、法定相続人の相続税の負担軽減のために相続税額から一定金額を控除することができます。この相次相続控除が受けられるのは次のすべてに当てはまる人です。

(1)被相続人の相続人であること。この制度の適用対象者は、相続人に限定されていますので、相続の放棄をした人
  および相続権を失った人がたとえ遺贈により財産を取得しても、この制度は適用されません。
(2)相続の開始前10年以内に開始した相続により被相続人が財産を取得していること。
(3)相続の開始前10年以内に開始した相続により取得した財産について、被相続人に対し相続税が課税されたこと。

計算式

各相続人の相次相続控除
=Ax{C/(B-A)}*xD/Cx(10-E)/10

 *求めた割合が100/100を超えるときは、100/100とします。

A:今回の被相続人が前の相続の際に課せられた相続税額。この相続税額は、相続時精算課税分の贈与税額控除後
 

の金額をいい、その被相続人が納税猶予の適用を受けていた場合の免除された相続税額ならびに延滞税、利子税
 および加算税の額は含まれません。
B:今回の被相続人が前の相続の際に取得した純資産価額(取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務
 および葬式費用の金額)
C:今回の相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得したすべての人の純資産価額の合計額
D:今回のその相続人の純資産価額
E:前の相続から今回の相続までの期間(1年未満の期間は切り捨てます。)

相続税の2割加算

被相続人の配偶者および一親等の血族以外の人が相続財産を取得した場合、その人の相続税額に2割相当額が加算されます。

妻Aさん、長男Bさん、次男Cさん、三男Dさん → 配偶者および一親等の血族のため加算なし
弟Eさん → 一親等の血族ではないため2割加算

例えば元配偶者や、子が生存しているときに孫が死亡保険金を受け取った場合、その方々は配偶者および一親等以内の血族ではないため、その人の算出された相続税額に2割相当額を加算した金額が納付税額となります。

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この記事を書いた人

本サイトを運営している現役FP

■経歴■
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立。

商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!

■保有資格■
-FP1級技能士
-CFP®
-証券外務員一種
-宅地建物取引士
-中小企業診断士
-貸金業務取扱主任者

詳しいプロフィールはこちらのリンクをご覧ください。

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