「長年勤めた会社を退職することになったけれど、健康保険の手続きはどうすればいいのだろう?」
「国民健康保険と、今の会社の保険を続ける任意継続、一体どちらがお得なの?」
退職という大きな節目において、このようなお悩みを抱える方は非常に多くいらっしゃいます。
会社員時代は毎月の給与から天引きされていたため、あまり意識していなかったという方も多いかもしれません。
しかし、退職後はご自身で手続きを行い、保険料を全額(または世帯単位で)納めることになります。この選択を間違えると、年間で数万円から十数万円もの差が生じることも珍しくありません。
今回の記事では、退職後の健康保険制度について基礎から分かりやすく解説いたします。
この記事を最後までお読みいただければ、ご自身の状況に合わせてどちらの保険を選ぶべきか、自信を持って判断できるようになります。
退職後の健康保険、3つの選択肢
会社を退職した後の健康保険には、大きく分けて3つの選択肢が存在します。
一つ目は、これまで加入していた会社の健康保険に引き続き加入する「任意継続」。
二つ目は、お住まいの市区町村が運営する「国民健康保険」に加入すること。
そして三つ目は、要件を満たすご家族がいる場合、その「ご家族の健康保険の扶養に入る」ことです。
ご家族の扶養に入る場合は、ご自身の保険料負担はゼロになりますので、まずは扶養の要件を満たせるかどうかを確認するのが鉄則です。
しかし、失業保険を受給する場合など、収入要件に引っかかり扶養に入れないケースも多々あります。
その際に迷うのが、「任意継続」と「国民健康保険」のどちらを選ぶべきかという問題です。
比較の鍵は「基本給」と「高所得者向けの負担軽減」にあり
任意継続と国民健康保険、どちらの保険料が安くなるかを比較する上で、絶対に押さえておきたいポイントがあります。
それは、現役時代の「基本給」と、任意継続における「高所得者向けの負担軽減(上限額)」の仕組みです。
任意継続の保険料は、退職時の基本給などをベースに決定される「標準報酬月額」をもとに計算されます。
現役時代は会社が保険料の半分を負担してくれていましたが、退職後は全額自己負担となるため、単純計算で現役時代の約2倍の金額を納めることになります。
これだけ聞くと「任意継続は高い」と感じるかもしれません。
しかし、任意継続には保険料の「上限」が設けられています。
加入していた健康保険組合によって異なりますが、標準報酬月額が一定の金額(例えば30万円など)で頭打ちになる仕組みがあるのです。
現役時代の基本給が高かった方にとっては、この上限設定が強力な「高所得者向けの負担軽減策」として機能します。
一方、国民健康保険は前年の所得(給与所得だけでなく他の所得も含む)と、世帯の人数をもとに計算されます。
国民健康保険にも賦課限度額という上限はありますが、任意継続の上限と比較するとかなり高く設定されています。
そのため、退職直前の基本給が高かった高所得者層の方は、任意継続を選んだ方が毎月の保険料が劇的に安くなるケースが多いのです。
具体的なシミュレーションでイメージしよう
では、より具体的にイメージしていただくために、3つのケーススタディを見ていきましょう。(※実際の保険料は自治体や組合により異なります)
【ケースA】退職時の基本給が高かった単身世帯の場合
現役時代の基本給が高く、年収が700万円ほどあった50代の方を想定します。
この場合、前年の高い所得をもとに国民健康保険の保険料が計算されるため、月額で数万円以上の高額な負担になることが予想されます。
しかし任意継続であれば、先ほど解説した「上限額」が適用されるため、保険料が一定額(例えば月額3万5千円程度)でストップします。高所得者向けの負担軽減効果が存分に発揮されるため、任意継続を選ぶのが圧倒的に有利と言えます。
【ケースB】配偶者を扶養している世帯の場合
国民健康保険の最大の特徴は「扶養」という概念がないことです。
専業主婦(夫)の配偶者がいる場合、国民健康保険では世帯主と配偶者のそれぞれに「均等割」という基本料金がかかってしまいます。
一方、任意継続の最大のメリットは、会社員時代と同じように「扶養」の仕組みが使えることです。
配偶者を扶養に入れれば、保険料はご自身の分だけで済みます。
したがって、扶養家族がいる場合は任意継続を選ぶ方が得になる可能性が極めて高いです。
【ケースC】前年の所得が少ない、または2年目以降の場合
病気療養などで前年の所得が少なかった場合は、国民健康保険の保険料も安く計算されます。
また、任意継続は原則として2年間保険料が変わりませんが、国民健康保険は「前年の所得」で毎年計算し直されます。
そのため、退職して収入が減った翌年(退職から2年目)は、国民健康保険の保険料が大きく下がる傾向にあります。
勘違いしやすいポイントと落とし穴
ここで、多くの方が陥りやすい注意点と落とし穴を解説します。
【落とし穴その1】任意継続の「納付期限」は厳格
任意継続の保険料は、毎月決められた期日までに必ず納付しなければなりません。
もし1日でも遅れてしまうと、いかなる理由があってもその資格を喪失してしまいます。
うっかり忘れを防ぐためにも、口座振替を利用するなど、確実な納付方法を選ぶことが重要です。
【落とし穴その2】任意継続から国民健康保険への切り替えルール
以前は一度任意継続を選ぶと2年間はやめられませんでしたが、現在は制度が変わり、任意のタイミングで辞退して国民健康保険に切り替えることができるようになりました。
「1年目は高所得者向けの負担軽減がある任意継続を利用し、退職後の所得が反映されて保険料が下がる2年目から国民健康保険に切り替える」という戦略が非常に有効ですので、ぜひ覚えておいてください。
FP実務でよく聞かれるQ&Aコーナー
【Q1】退職後、手続きの期限はいつまでですか?
【A1】任意継続の手続きは「退職日の翌日から20日以内」、国民健康保険は「退職日の翌日から14日以内」に行う必要があります。とくに任意継続の20日という期限を過ぎると加入できなくなりますので、退職前にある程度どちらにするか決めておくことを強くおすすめします。
【Q2】どちらが安いか、正確な金額を知る方法はありますか?
【A2】はい、事前に確認することが可能です。任意継続の保険料は、お勤めの会社の担当部署や加入している健康保険組合に問い合わせれば教えてもらえます。国民健康保険の保険料は、お住まいの市区町村の窓口に「退職前年の源泉徴収票」を持参して試算をお願いすれば、正確な金額を出してもらえます。退職前に両方の数字を把握しておくことが失敗しないコツです。
記事の重要ポイントのおさらい
それでは、今回の記事の重要ポイントを簡潔におさらいします。
【ポイント1】まずはご家族の健康保険の扶養に入れないかを確認する。
【ポイント2】任意継続には「高所得者向けの負担軽減(上限額)」と「扶養」のメリットがある。
【ポイント3】退職時の基本給が高かった方や、扶養家族がいる方は「任意継続」が有利になりやすい。
【ポイント4】1年目は任意継続、2年目は国民健康保険への切り替えを検討するのが賢い選択。
【ポイント5】正確な比較を行うために、退職前に窓口で必ずそれぞれの保険料の試算を行う。
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退職後の健康保険選びは、その後の生活資金に直結する重要な決断です。しかし、ご自身の基本給や今後のライフプランによって最適な答えは一人ひとり異なります。
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