年末調整の時期が終わり、手元に届いた「源泉徴収票」。なんとなく金額を眺めて、「……えっ、こんなに税金引かれてるの!?」と愕然としたことはありませんか?
額面の年収はそこそこあるはずなのに、銀行口座に振り込まれる手取り額は思ったより少ない。
その犯人の一角が、この「所得税」です。
「どうせ会社が勝手に計算しているし、難しくてよくわからない」
そう思って源泉徴収票を机の奥にしまってしまうのは、実はとてももったいないことです。
なぜなら、「税金がどのように計算されているか」を知ることは、手元に残るお金を増やすための「節税」への第一歩だからです。
この記事では、一見複雑に見える所得税の計算方法を、誰でも理解できるように3つのステップに分解して解説します。
専門用語にはわかりやすい注釈を入れていますので、ぜひ電卓(またはスマホ)を片手に、ご自身の源泉徴収票と照らし合わせながら読み進めてみてください。
この仕組みさえわかれば、来年の手取りを増やすために「今、何をすべきか」がハッキリと見えてくるはずです。

わがままボーヤ
マネー相談室長
本サイトを運営している現役FP
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立
商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!
所得税が決まる「4つの箱」
いきなり計算を始める前に、まずは所得税がどのような流れで決まるのか、その全体像を掴んでおきましょう。
所得税の計算は、大きく分けて以下の4つのブロック(箱)を通過して決まります。
「年収」と「所得」の違い
まず、一番大切なポイントをお伝えします。
税金は「年収(額面)」にそのままかかるわけではありません。
もし年収すべてに税率を掛けられたら、私たちの生活は破綻してしまいますよね。
会社が売上から経費を引いて「利益」を出すのと同じように、私たち個人の税金も、年収から「経費」や「生活にかかる事情(控除)」を差し引いた、残りの「利益(所得)」に対して課税されるのです。
計算式は「収入−経費−控除」
所得税の計算式を、極限までシンプルにすると以下のようになります。
税金 = (収入 – 経費 – 控除) ×税率
この式の「経費」や「控除」が大きければ大きいほど、掛け算の元となる数字が小さくなり、結果として税金が安くなります。
控除(こうじょ)とは?
「差し引く」という意味です。税金を計算する際に、ある金額から差し引いてくれるお得な制度のこと。
「税金の割引クーポン」のようなものだとイメージしてください。
それでは、この式に具体的な数字を当てはめていく3つのステップを見ていきましょう。
Step1:給与所得(利益)を出す
最初のステップは、源泉徴収票の一番左上にある「支払金額(年収)」からスタートします。
ここから、会社員としての「経費」を引いていきます。
会社員の経費「給与所得控除」
自営業の人は、仕事で使うパソコン代や交通費を「経費」として計上できますが、会社員は原則として実費の経費精算が認められにくい仕組みになっています。
「それじゃ不公平だ!」となりますよね。そこで、会社員には「給与所得控除(きゅうよしょとくこうじょ)」という、年収に応じた「みなし経費」が用意されています。
実際にスーツ代がかかっていてもいなくても、「あなたの年収なら、これくらい経費がかかってるよね」と自動的に引いてくれるありがたい制度です。
【速算表】年収500万の計算例
この「給与所得控除」は、国税庁が定めた計算式(速算表)ですぐにわかります。例えば、年収(支払金額)ごとの計算は以下のようになります。
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 | |
|---|---|---|
| 1,900,000円まで | 650,000円 | |
| 1,900,001円から3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 | |
| 3,600,001円から6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 | |
| 6,600,001円から8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 | |
| 8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) | |
【例:年収500万円のAさんの場合】
500万円×20% + 44万円=144万円
これがAさんの「みなし経費」です。
年収500万円から、この経費144万円を引いた残り356万円。
これが、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」欄に書かれる数字であり、Aさんの「給与所得(サラリーマンとしての利益)」となります。
Step2:課税所得(対象額)を確定
ステップ1で出した「利益」から、さらに個人の事情を考慮して金額を引いていきます。
ここが「所得控除(しょとくこうじょ)」と呼ばれる部分で、節税のメインステージです。
基礎控除と社会保険料控除
まず、誰にでも適用されるものや、強制的に支払っているものが引かれます。
● 基礎控除
「生きているだけでコストがかかる」として、所得2,400万円以下の人なら一律48万円が引かれます。
● 社会保険料控除
毎月の給料から天引きされている健康保険、厚生年金、雇用保険などの合計額です。
これらは全額、所得から差し引くことができます。源泉徴収票の「社会保険料等の金額」を見てみてください。結構な金額になっているはずです。
家族がいれば配偶者・扶養控除
養っている家族がいる場合は、さらに生活コストがかかるため、その分税金の対象額を減らしてくれます。
● 配偶者控除・配偶者特別控除
パートナーがいる場合に一定の所得以下であれば適用できます。年収に応じて適用できる金額が変わります。
● 扶養控除
子供や親を養っている場合に適用されます。
iDeCoや生保もここで引く
● 生命保険料控除
自分で加入している民間の生命保険料や地震保険料も、一定額まで控除できます。
● 小規模企業共済等掛金控除
最強の節税制度と言われるiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、ここで「全額」差し引くことができます
これらをすべて差し引いて残った金額が、「課税所得(かぜいしょとく)」です。
課税所得とは?
最終的に税率を掛けるターゲットとなる金額のこと。源泉徴収票には載っていない数字なので自分で計算する必要があります。
Step3:税率を掛けて税額算出
「課税所得」が出たら、ゴールは目の前です。最後に税率を掛けましょう。
累進課税:稼ぐほど税率は上がる
日本の所得税は「超過累進税率(ちょうかるいしんぜいりつ)」という方式をとっています。これは、「所得が増えれば増えるほど、その増えた部分にかかる税率が高くなる」という階段方式の仕組みです。
- 1,000円 〜 194万9,000円まで:5%
- 195万円 〜 329万9,000円まで:10%
- 330万円 〜 694万9,000円まで:20%(※以降、最大45%まで上がります)
【実例】実際の税額を計算
では、先ほどのAさん(年収500万円・独身・生命保険料控除などの合計が10万円と仮定)で最後まで計算してみましょう。
- 給与所得: 356万円(ステップ1で計算済み)
- 所得控除の合計:
- 基礎控除:48万円
- 社会保険料:約75万円(概算)
- その他控除:10万円
- 合計引ける額:133万円
- 課税所得:
- 356万円(給与所得) − 133万円(控除) = 223万円
【税額計算】
課税所得223万円なので、税率は「10%」の枠に入りますが、計算には便利な速算表を使います。
$$223\text{万円} \times 10\% – 97,500\text{円} = \mathbf{125,500\text{円}}$$
これが、Aさんが1年間に納めるべき本来の所得税額です。
(※ここからさらに2037年までは復興特別所得税2.1%が加算されます)
最後の切り札「税額控除」
計算して出た税額、これで確定ではありません。最後に**「税額そのものから直接値引きしてくれる」強力なスペシャルクーポンが存在します。それが「税額控除(ぜいがくこうじょ)」**です。
効果絶大!住宅ローン控除
もっとも代表的なのが「住宅ローン控除」です。
例えば、年末の住宅ローン残高に応じて「20万円控除します」となった場合、先ほど計算した税額125,500円から、直接20万円を引くことができます。
この場合、所得税は0円になり、給料から天引きされていた分はすべて年末調整で戻ってくることになります。
「所得控除」との違いは、税率を掛ける「前」に引くか、「後」に引くかです。「後」から引く税額控除の方が、節税効果は圧倒的に大きくなります。
まとめ:仕組みを知れば節税できる
ここまでの流れをおさらいしましょう。
- 給与所得を出す:年収から「みなし経費」を引く
- 課税所得を出す:そこからさらに「個人的な事情(控除)」を引く
- 税額を出す:残った金額に「税率」を掛ける
源泉徴収票は、あなたが1年間どれだけ働き、どれだけ社会に貢献(納税)したかを示す通知表のようなものです。
計算手順がわかると、**「課税所得を減らせば、税金が減る」**というシンプルな事実に気づきます。
会社員ができる節税は限られていますが、「iDeCo」や「ふるさと納税(※ふるさと納税は住民税の先払いですが、実質的な負担軽減になります)」などを活用することで、来年のこの数字を変えることは可能です。
ぜひ一度、ご自身の源泉徴収票と電卓を叩いて、税金の正体を確認してみてくださいね。