資産管理法人とは?設立のメリット・デメリットと節税シミュレーションを解説

不動産収入や株式投資による配当など、資産運用による所得が増えてくると、それに伴って大きくなるのが税金の負担です。

個人の所得税は累進課税であり、所得が多ければ多いほど税率が上がっていきます

そこで多くの資産家が活用を検討するのが「資産管理法人(資産管理会社)」の設立です。

この記事では、資産管理法人とは何か、なぜ設立するのか、そして具体的なメリット・デメリットから簡単なシミュレーションまで、網羅的に解説します。

目次

資産管理法人とは

資産管理法人とは、その名の通り「資産を管理すること」を主な目的として設立される法人のことです。

一般的な株式会社や合同会社と法的な違いはありませんが、商品開発やサービス提供といった積極的な営業活動は行いません

主な業務は、設立者(オーナー)個人が所有していた資産を法人の名義に移し、その資産から生じる収益(例:不動産の家賃収入、株式の配当金など)を法人の収益として受け取ることです。

実質的な活動はオーナー自身やその家族のみで行うことが多いため、「プライベートカンパニー」と呼ばれることもあります。

なぜ資産管理法人を作るのか

では、なぜわざわざ法人を設立して個人の資産を管理するのでしょうか。

主な目的は大きく分けて2つあります。

節税対策(所得税・住民税)

最大の目的は「節税」です。

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる「累進課税」が採用されており、住民税と合わせると最大で55%の税率になります。

一方、法人税の税率は一定のライン(現在は所得800万円)を超えると、ほぼフラットです。

個人の所得が一定額を超えると、個人として高い税率で納税するよりも、法人を設立して法人税を納め、自身は法人から「役員報酬」として給与を受け取るほうが、トータルの税負担を抑えられる可能性があるのです。

相続対策

もう一つの大きな目的が「相続」です。

個人で不動産や非上場株式などの「分けにくい資産」を複数所有していると、相続が発生した際に遺産分割でトラブルになりがちです。

しかし、これらの資産をあらかじめ資産管理法人に集約しておけば、相続の対象は「その法人の株式」になります。

不動産そのものを分割するより、株式として分割するほうが遥かに容易であり、スムーズな資産承継の準備が可能になります。

メリット

資産管理法人を設立する具体的なメリットを見ていきましょう。

所得税と法人税の税率差による節税

前述の通り、個人の所得税率(最大55%)と法人税の実効税率(約25%~35%程度)には大きな差があります。個人の課税所得が一定ライン(一般的に800万~1,000万円)を超えてくると、法人化した方が税率面で有利になります。

所得の分散

法人から個人に支払う「役員報酬」を活用することで、所得を分散できます。例えば、オーナー1人が2,000万円の所得を得るのではなく、法人を設立し、オーナーに1,000万円、生計を共にする配偶者(役員)に500万円、子(役員)に500万円と役員報酬を支払う形にすれば、それぞれに給与所得控除が適用され、低い税率が適用されるため、世帯全体での手取り額を増やせる可能性があります。

経費(損金)として認められる範囲の拡大

個人事業主と比べて、法人は経費(法人税法上は「損金」)として認められる範囲が広がります。

役員報酬: 家族への給与(役員報酬)も経費にできます。

退職金: 役員や従業員(家族を含む)に退職金を支払うことができ、これは経費になります。受け取る側も「退職所得控除」という大きな控除があり、税制上非常に優遇されています。

生命保険料: 一定の要件を満たす生命保険や医療保険の保険料を経費にできます。

社宅: 法人名義で家を借り、役員社宅としてオーナーに貸し出すことで、家賃の大部分を経費にしながら個人の家賃負担を軽減できます。

損失の繰越期間が長い

赤字(欠損金)が出た場合、個人(青色申告)は3年間しか繰り越せませんが、法人の場合は10年間(※)繰り越すことができます。これにより、大きな赤字が出た年があっても、将来の黒字と相殺しやすくなります。 (※2018年4月1日以後に開始した事業年度において生じた欠損金)

損益通算の柔軟性

個人では、例えば「株式投資の損失」と「不動産所得の利益」を相殺(損益通算)することはできません。しかし、法人であれば、それらすべてが法人の事業内での活動となるため、様々な損益を内部で通算し、最終的な利益に対して課税されます。

デメリットと注意点

もちろん、メリットばかりではありません。設立・運営にはコストと手間がかかります。

  1. 設立・維持コストの発生 法人を設立するだけで、株式会社なら約25万円、合同会社でも約10万円程度の法定費用(登録免許税など)がかかります。 さらに、たとえ赤字であっても毎年必ず発生する「法人住民税の均等割」(最低でも年間約7万円)や、税務申告を依頼する税理士への顧問料(年間数十万円)など、法人を「維持」するだけでコストがかかります。
  2. 社会保険への加入義務 これが最大の注意点かもしれません。法人を設立し、役員報酬を1円でも支払うと、原則として社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられます。保険料は法人と個人で半分ずつ負担しますが、トータルの負担額は、個人の国民健康保険+国民年金よりも高額になるケースが多くあります。
  3. 事務負担の増加 個人の確定申告(青色申告)とは比べ物にならないほど、法人の経理処理と税務申告は複雑です。複式簿記での記帳、決算書の作成、法人税申告書の作成など、専門知識が不可欠であり、税理士のサポートなしに運営するのは非常に困難です。
  4. 資産の私的利用の制限 法人名義にした資産は、当然ながら「会社の資産」です。法人の口座にあるお金をオーナーが生活費として自由に引き出すことはできません。「役員報酬」や「配当」といった正規の手続きを経て個人に移す必要があり、その際には個人側で所得税がかかります。

シミュレーション

では、どのくらいの所得があれば資産管理法人を設立するメリットが出るのでしょうか。 これは「社会保険料」をどう考えるかで大きく変わるため一概には言えませんが、一般的に「個人の課税所得が800万~1,000万円」を超えるあたりが目安とされます。

【前提条件】

  • ある個人の不動産所得(経費等を引いた後の利益)が年間1,200万円あるとします。
  • 簡略化のため、個人の控除は基礎控除のみ、法人の経費は役員報酬と社会保険料のみと仮定します。

<ケース1:個人のままの場合>

  • 課税所得:1,200万円
  • 所得税:約237万円(税率33% – 控除153.6万円)
  • 住民税:約120万円(税率10%)
  • 国民健康保険料:約106万円(上限 ※自治体による)
  • 国民年金:約20万円
  • 年間の合計負担:約483万円
  • 手取り:約717万円

<ケース2:資産管理法人を設立した場合>

法人の利益1,200万円を、オーナーへの役員報酬(給与)と法人の利益に分けます。 ここでは、役員報酬を600万円(月50万円)に設定したと仮定します。

  • ①個人(オーナー)の負担
    • 給与収入:600万円
    • 社会保険料(個人負担分):約87万円
    • 所得税:約25万円
    • 住民税:約34万円
    • 個人の合計負担:約146万円
    • 個人の手取り:約454万円
  • ②法人の負担
    • 法人の利益:1,200万円
    • 経費(役員報酬):600万円
    • 経費(社会保険料・法人負担分):約87万円
    • 法人の課税所得:1,200万 – 600万 – 87万 = 513万円
    • 法人税等(実効税率約25%と仮定):約128万円
    • 法人の合計負担:約128万円
    • 法人に残る利益(内部留保):約385万円

【シミュレーション結果の比較】

  • ケース1(個人)
    • 手元に残る金額:約717万円
  • ケース2(法人)
    • 個人の手取り:約454万円
    • 法人に残る利益:約385万円
    • 手元に残る金額(合計):約839万円

この非常に単純なシミュレーションでも、年間約122万円の差(手取り・内部留保の合計)が生まれました。

実際には、法人に役員社宅の家賃や生命保険料などの経費(損金)が加わるため、法人の利益はさらに圧縮され、節税効果は高まります。また、家族に役員報酬を分散させれば、効果はさらに大きくなります。

ただし、これはあくまで一例です。役員報酬の設定額や家族構成、利用する経費によって結果は大きく変わります。

まとめ

資産管理法人は、個人の所得税率が法人税率を大きく上回る高所得者にとって、非常に強力な節税および資産承継のスキームです。

一方で、設立・維持コスト、複雑な事務手続き、そして特に社会保険料の負担という大きなデメリットも存在します。メリットがデメリットを上回る「損益分岐点」を正しく見極めることが重要です。

「自分の所得レベルでも設立すべきか?」と迷った場合は、単に税率の比較だけでなく、社会保険料の負担や将来の相続まで含めてトータルで試算する必要があります。 設立を具体的に検討する際は、必ず資産税や法人税務に詳しい税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

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この記事を書いた人

本サイトを運営している現役FP

■経歴■
保険代理店で10年以上活動し2,000世帯以上とFP相談を行うも手数料ビジネスに嫌気がさし、FIREの実現を機に独立。

商品を販売しない自由なFPとして、自分が本当に伝えたいことを「わがまま」に遠慮なく有益な情報をお届け!

■保有資格■
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-CFP®
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-宅地建物取引士
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