「今期は予想以上に利益が出そうだ」
経営者にとって喜ばしいことですが、同時に頭をよぎるのが**「法人税」**の負担です。
しかし、闇雲に経費を使い切るだけの「お金が残らない節税」は、会社の財務基盤を弱めることになりかねません。真に賢い節税とは、目先の税金を抑えつつ、将来の設備投資や退職金、あるいは万が一の備えとして**「含み資産」を社外にストックすること**です。
本記事では、2026年現在の税制に基づき、法人が優先的に検討すべき4つの強力な手法を解説します。
• 全額損金でキャッシュを積み立てる「経営セーフティ共済」
• 固定費を前払いして今期の経費を倍にする「短期前払費用」
• 最新設備を導入しつつ即時経費化する「少額減価償却資産」
• インフレ対策と退職金準備を両立する「変額保険」
それぞれのメリット・デメリット、そして税務調査で否認されないためのポイントを実務目線で整理していきましょう。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)
法人の利益を圧縮しつつ、最も確実かつ効率的に「簿外資産」を築けるのがこの制度です。
全額損金で年間最大240万円を積み立てる
経営セーフティ共済の最大の魅力は、支払った掛金の全額を損金(経費)に算入できる点にあります。
• 掛金の範囲: 月額5,000円〜20万円まで自由に設定可能。
• 節税のインパクト: 最大の月20万円に設定すれば、年間で240万円の利益をそのまま削ることができます。
• 積立上限: 累計で800万円まで積み立て可能です。
40ヶ月以上で元本100%回収、しかも「無担保貸付」も
40ヶ月(3年4ヶ月)以上納めれば、自己都合の解約であっても掛金が**100%**戻ってきます。また、取引先が倒産した際の資金貸付だけでなく、一時的にキャッシュが必要になった際にも、積み立てた範囲内で低利の「一時貸付金」を利用できるため、資金繰りのセーフティネットとしても機能します。
【2026年の注意点】解約後の「2年間の壁」
2024年の税制改正により、節税のみを目的とした解約・再加入への制限が厳しくなりました。
**「一度解約して受け取った後、再加入しても、その日から2年間は掛金を損金に算入できない」**というルールです。
そのため、「800万円貯まったから一度リセットしてまたすぐ始める」というループが封じられました。出口戦略(解約のタイミング)をこれまで以上に慎重に計画する必要があります。
短期前払費用の特例
「決算まで残りわずかだが、あと数百万円利益を削りたい」という場面で、最も使い勝手が良いのがこの手法です。
翌年分の固定費を「今期の経費」に持ち越す
通常、まだ受けていないサービスの代金は資産として扱いますが、この特例を使えば、**支払った日から1年以内に受けるサービスの対価(家賃、リース料、保険料など)**を、支払った期に全額損金として計上できます。
• 節税の仕組み: 例えば月額30万円のオフィス家賃を3月の決算期に翌1年分(360万円)まとめて支払うことで、今期は通常の12ヶ月分に加え、前払いした12ヶ月分、合計24ヶ月分の家賃を一度に経費化できます。
• 対象となる経費: 地代家賃、支払利息、リース料、火災保険料、顧問料など、継続的に発生するものが対象です。
一度始めたら戻れない「一生年払いの呪い」
この特例を適用するには、**「継続して適用すること」**という厳格なルールがあります。「利益が出た年だけ年払いにする」ということは認められず、翌年以降もずっと年払いを続けなければなりません。
もし途中で月払いに戻してしまうと、その年は「1年分(またはそれ以上)の経費が計算上消えてしまう」ことになり、利益が跳ね上がり、多額の課税が発生するリスクがあります。
税務調査で否認されないためのポイント
• 決算日までの着金: 決算日までに実際に預金口座からキャッシュが出ていなければなりません。
• 契約書の整備: 「月払い」の契約のまま勝手に年払いするのではなく、支払い方法を「年払い」に変更する旨の覚書などを残しておくと、税務上の信頼性が高まります。
少額減価償却資産の特例
「必要な備品を購入して、同時に税金も減らす」という、最も前向きな節税手法です。2026年度の税制改正による変更点も踏まえて解説します。
30万円(改正後は40万円)未満をその場で全額経費に
通常、パソコンや家具などの備品は「減価償却」として数年かけて経費にしていきます。しかし、青色申告をしている中小企業であれば、**1個あたり30万円未満(2026年4月以降の取得分からは40万円未満に拡充予定)**の資産について、買った年に全額損金にできる特例があります。
• 節税のインパクト: 例えば25万円の高性能PCを10台導入した場合、本来なら4年かけて経費にするところを、今期一気に250万円の経費として計上できます。
• 適用上限: 年間合計で300万円までがこの特例の枠となります。
「決算直前の駆け込み」の注意点
この特例を適用するには、単に「買った(契約した)」だけでは不十分です。**「決算日までに事業の用に供している(使い始めている)」**ことが絶対条件となります。
• OK: 決算日にPCが届き、初期設定を済ませて業務に使用した。
• NG: 決算日に商品は届いたが、箱に入ったまま倉庫に眠っている。
経理方式による「30万円」の判定
この金額判定は、会社の経理方式によって異なります。
• 税抜経理の会社: 税抜価格で判定(例:29.8万円+税=32.78万円でも、29.8万円として判定されるためOK)
• 税込経理の会社: 税込価格で判定(例:29.8万円+税=32.78万円の場合、30万円を超えるため特例対象外)
少しでも高価なものを経費化したい場合は、税抜経理の方が有利になります。
【資産形成】生命保険(変額保険)の法人活用
2019年の税制改正以降、かつてのような「支払額の全額を損金にしながら高い貯蓄性を得る」という手法は姿を消しました。しかし現在、インフレ対策と将来の退職金準備を目的とした**「変額保険」**が再び注目されています。
「節税」から「簿外資産の運用」へ
現在の法人保険は、解約返戻率のピークに応じて損金(経費)に算入できる割合が決まっています。変額保険の場合、支払保険料の一部は資産として積み立てられ、残りの一部が損金となります。
• 変額保険の強み: 預金と異なり、運用実績に応じて解約返戻金が増減します。世界的なインフレが続く2026年現在、固定金利の積立よりも、株式や債券で運用する変額保険の方が、将来の退職金の実質的な価値を守れる可能性が高まります。
• 簿外資産の構築: 帳簿上は一部が「資産」として載りますが、運用益が出ている場合、その含み益は解約するまで表面化しない「簿外資産」となります。
出口戦略:赤字や退職金と「ぶつける」
保険を解約して戻ってきたお金(解約返戻金)は、その期の法人の「利益」となります。何の対策もなしに受け取ると多額の法人税がかかってしまいますが、以下のようなタイミングで解約するのが鉄則です。
1. 役員の退職時: 解約返戻金をそのまま「役員退職金」として支払うことで、利益と経費を相殺させます。
2. 大規模な設備投資時: 老朽化した工場の修繕やシステムの入れ替えなど、大きな支出がある年に解約して補填します。
注意点:リスクの理解
変額保険は運用次第で元本を割り込むリスクもあります。「節税になるから」という理由だけで加入するのではなく、法人の余剰資金を中長期的にどう守り、どう増やすかという**「資産運用」の視点**が不可欠です。
結論:4つの手法をどう組み合わせるべきか?
節税で最も大切なのは、**「キャッシュを外に出しすぎないこと」と「戻ってくる時の出口(税金)を設計すること」**です。以下の優先順位で検討することをお勧めします。
1. 優先順位のガイドライン
• STEP 1:経営セーフティ共済(月20万円)
まずはここから。全額損金かつ流動性が高いため、累計800万円の枠を埋めるまでは最優先です。
• STEP 2:短期前払費用の特例(家賃・リース等)
決算直前でさらに利益を削りたい場合に。一度始めたら継続が必要なため、固定費が安定していることが条件です。
• STEP 3:少額減価償却資産の特例(PC・備品等)
業務に必要な設備投資があるなら迷わず活用。今期は30万円(改正後は40万円)未満のものを狙って買い替えましょう。
• STEP 4:生命保険(変額保険)
上記3つをやりきった上で、5年〜10年以上の長期的なスパンで「社長の退職金」や「インフレ対策」を考える場合に活用します。
2. 「出口」を制するものが節税を制する
「セーフティ共済」や「変額保険」は、解約時にお金が戻ってくると**「法人の利益(益金)」**になります。何の対策もなければ、その年に多額の税金がかかってしまいます。
• 赤字の年を狙う: 業績が悪化した年に解約し、解約返戻金を赤字の補填に充てる。
• 退職金で相殺する: 社長や役員の引退時に解約し、そのまま「役員退職金(損金)」として支払う。
• 設備投資に充てる: 修繕や新設備の導入など、大きな支出がある年に解約する。
最後に
節税は、単に「払うべき税金を消す魔法」ではなく、**「税金を払うタイミングをコントロールし、会社を強くする手段」**です。
2026年の最新ルールを味方につけて、キャッシュフローの最適化を目指しましょう。